恋の味を教えよう
朝の始まりからおかしかった。目覚めとともに違和感を感じるなんて、どうかしてると思うのだが。
「なんで身体が柔らかいんだ?」
身体の感覚がいつもと違った。
「俺の服、デカくなってるし…」
なにかがおかしい。筋肉がほとんどついていない。力もだいぶ弱くなっていて、明らかにあってはならないモノがある。
触った部分に指先が沈んでいく。ふにふにと小さいながらも柔らかい胸。
「原因は那月…だよな」
服の中を覗けば、そこにあるのは小さな膨らみ。お腹の辺りは滑らかに変化している。
ガチャッ
「やっと起きたか」
「那つ…ってなんで砂月になってんだよ」
扉が開く音。那月かと思って怒鳴りつけようとしたのに、現れたのは砂月だった。流石にこいつ相手で墓穴を掘る気にはなれず口から出たのは少しの文句だけ。
「ずいぶん可愛らしくなったな、翔」
「可愛くねえよ!!」
「その格好なのに、か?」
今の俺は服もダボダボで身体も幾分か小さい。それを見た砂月は、笑みを張り付けた顔で近づいてくる。同じ部屋なのだから目の前に来るのもあっという間。
「近くの方が断然可愛く見える」
「ううるせえ!今回はおまえの仕業か!」
「半分当たりで、半分はずれだ」
意味深な答えに余計悩まされる。那月の思考も理解に苦しむが、砂月の場合は一段と意味が解りづらい。
女の身体では反撃なんて不可能。…男の身体でもこいつの馬鹿力には勝てない。
「…翔……口、閉じんなよ」
「え?…なっ…んぅ」
キスされている。しかもとびきり深く、さっきまでの思考が曖昧に溶けていく。逃げようと引っ込む俺の舌を砂月が絡めとる。
「……っ…あ、さ…っき…」
「んっ……なんだ?」
どちらのソレとも分からない唾液が唇から伝う。それを指でなぞるこいつは、怖いくらいの笑顔だった。
「結局、俺が女になった原因は…?」
「那月が見つけた薬を俺が翔に使った」
疲れて砂月にもたれかかると、意外にも優しく背中に腕が回された。早鐘を打つ自分の胸が触れていない事が幸いだ。平然としているこいつには知られたくない。
「俺を女にする意味はないんじゃねえの?」
那月にしろ、砂月にしろ、女がいいなら探せばいくらでも見つかる。
「はぁ?翔にやるからいいんだろ」
「俺は男で、別に可愛くねえし」
「なんだ、拗ねてるのか」
「拗ねてない!こっち見るな!」
慌てて服に隠れるように、こいつの身体へ身を押しつける。布越しに伝わる温かさは自分よりも熱い。よく耳を澄ませば聴こえる鼓動も、遥かに早く驚いてしまった。
「あのなぁ…あんまり可愛い事してると、」
ぎゅっと握る服に顔を押しつけていろいろな衝動を堪える。途中で切られた言葉、耳元に感じる吐息が身体を熱くさせていく。
「……可愛い事してると、襲うぞ」
「なっ!?えっ、あ、砂月?」
慌てて腕の中から逃れる為に顔を上げれば、柄にもなく口元を押さえたこいつがいて。静かに顔を赤くさせている。
「なんか真っ赤だけど、大丈夫か?」
「うるさい…翔のせいだ」
頭を撫でる掌はぎこちなく、抱きしめられている俺はしばらく動けなかった。砂月が落ち着くその時まで、俺はそのまま意識を沈める。
「女にしたら、間違いなく目に毒だな」
もともと睫毛も長くまんまるな瞳も可愛い要素。それが今度は女になったら身体はいつも以上に柔らかく、特有の色気まで加わってしまった。
「これが惚れた弱みか」
珍しく動揺した砂月はいわゆる生殺し状態。目覚める頃には元に戻る相手を待つばかりだった。
title by 確かに恋だった
熱く甘いキスを5題より
アンケート作品*砂翔で甘々にょた