誰にでもスキだらけ《翔
まぁ、友達が増えるのはいいと思う。俺ならその方が学校生活が楽しくなるだろうし、授業もやる気が出るから。
ただ、あいつが他の男と仲良くするのは正直面白くない。その相手が自分の友人でも、だ。
俺の隣ではトキヤとレンに囲まれて、楽しそうに話している春歌は笑みを零していた。
「レディは今日も可愛いね」
「レン、今は課題曲の話をしていたでしょう」
「別にいいだろう?ちゃんと話も聞いてるよ」
クスクスッ
「一ノ瀬さんも神宮寺さんも楽しそうです」
「冗談はよしてください」
「レディにはそう見えたんだね」
「翔くんもそう思いませんか?」
そんな、たわいもない会話を繰り広げている。日常的な光景だけどたまには二人きりで話したい…それは俺だけなのかな。
らしくもない事を考えてたら、心配そうに春歌が覗き込んでいた。
「翔くん、翔くん…」
「あ、あぁ悪い。ぼーっとしてた」
「翔が考え込むなんて珍しいですね、レン」
「確かに。イッチーもそう思ったか」
「あのなー、俺だってこういう時もあるぞ」
明らかに二人の視線が楽しそうな気がする。
「大丈夫ですか?翔くん、具合とか」
「春歌も大丈夫だって!それより…」
言葉を切った俺を不思議そうに見つめるこいつと、それを面白そうに見守るトキヤとレン。
「春歌、ちょっと連れてくからな」
やっと切り出せた。春歌の手を握って中庭を目指す。教室を出る寸前で振り返ると…
「いってらっしゃい、おチビちゃん」
「おぅ!つか、おチビちゃん言うな!!」
「どうぞ…七海さんもいってらっしゃい」
「えっと…行ってきます」
ひらひらと手を振るレンと相変わらずあっさりしたトキヤがいた。
「よしっ!やっと二人になれたぜ」
「しょ、翔くん。手…」
「嫌だったか?」
「ううん。嫌じゃない、けど恥ずかしいかな」
顔を赤らめて掌を握るおまえはすごく可愛くて、女の子なんだなぁと実感してしまう。頭の中でパンクしそうな想いでも、今は耐えるしかない。
「いきなり連れ出してごめんな!」
「少し驚きましたけど、大丈夫です」
「そっか。でも今回はおまえが原因だからな!」
「わ私、何か…しちゃいましたか?」
ただでさえ近い目線をさらに近づけると、焦った様子でハテナマークが浮かんで見えそうだ。
「春歌が俺と話すより楽しそうだった」
「………それだけですか?」
「っそれだけだよ!」
クスクスッ
それを聞いたおまえは口元を隠しながら、小さく肩を揺らしている。
「笑うなよ!俺だって嫉妬くらい、」
「私の1番は翔くんですよ」
「なっ何をいきなり」
「これからもずっと、翔くんが大好きです」
チュッ
頬に軽く触れた感触に、今度は俺が赤くなった。
「は、は、春歌!」
「翔くんだって気をつけてください」
「……何にだよ」
クスッ
「私以外の女の子に、です」
微笑む姿が何よりも幸せそうなのに、紡ぐ言葉は少しの不安を含んでいた。
title by 確かに恋だった
無防備な君に恋をする5題