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愛してるなんて


目に毒だ。

その言葉に尽きる。

「ちょっとエストってば、ここを開けて」
「無理です」

時を遡る。休日の賑わうラティウムの街に二人で出かけた。いつものようにマカロンを買ったり、媒体を見て過ごした時間。たまたま、彼女は誤って噴水に落ちてしまったのだ。

「うわぁ…服がびしょびしょ」
「今はごまかします。レーナ・アンブラー…」

水浸しの服は肌に張り付いて、女性特有の身体を浮き出していた。さすがに恋人にその姿でいられるのは困る。

着替えを店で買うことも考えたが、そのまま歩き回るのは気が引けた。それに僕自身がいろんな意味で困るので服を貸そうと思ったのだ。

魔法で一時的に繋いだ僕の部屋への扉。寮の門番なる魔獣たちには、ルルが何度も説明したおかげで通してもらえた。…そこまでは問題なかったのだ。

問題はその後。

「しばらくルルは、そこにいてください」
「どうして?」

扉越しに響く高いソレ。
魔法での中にもう一つの空間を作って正解だったか。

今は姿が見えなくても、一度見てしまったものが焼き付いて消えない。

シャツが身体の違いを明らかにしていた。僕には合っていても、女性のソレでは無理があった。透けないだけ良いのかもしれないが、柔らかい体つきは嫌でも分かってしまう。

僕から触ったらどんな感触なのだろう。その時、彼女はどんな反応を見せるのか。

きっと驚きながらも、可愛らしく映るに違いない。

そんな考えがつい浮かんでしまい、赤くなる顔を押さえて苦笑いした。本人が目の前にいたら、確実にからかうのだろう。

最初に気づくべきだった。もとのサイズが大して変わらないのだから、貸す物を考えれば分かる。一時的だからと、シャツを安易に出した事を後悔した。

「その格好で動かれたら困ります」
「さっき着替えたばかりよ?」
「すいません。僕が選択を誤りました」
「透けてないから平気よ」

ルルと性別が同じであったなら、まだマシだった。同じ造りなのだから問題などない。

でも貴女は女性で、ましては恋人として付き合っている。

好きだと頭が理解してしまった以上、何もかもが毒になりうるのだ。

「ルルが良くても、僕は駄目なんです」

彼女から自分と同じ香りがする。

それは僕の服を貸したからだ、という事は理屈で分かってるのに。

「やっぱり私に貸すの嫌だった?」
「ルル。そういう訳では、ないんです」
「でも…さっきからエストの様子が変だもの」
「それは気にしないでください」

何かいけない事を犯してしまったような気分でおかしい。

「自分の中で葛藤してるだけですから」
「私のせいではないの?」
「あえて言うなら僕自身のせいです」

理性が抑えるものは、油断すればルルを傷つけてしまう。

それといって、今の状況で誰かに会わせるつもりはない。

自分が向き合っている勇気もい。

わざわざ魔法で部屋の中を隔離したのはその為だ。

「もう少しで落ち着きますから、我慢してください」
「むー…エストの部屋に悪戯しちゃうんだから!」

ガタガタと音が聴こえる。
それすらも、今は気持ちを落ち着かせる材料でしかなかった。

「ルルの悪戯なら、構いませんよ」

恋人として見るには、僕にはまだまだ耐性がなくて困る。


愛してるなんて言わなければよかった。

title by 確かに恋だった






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