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嘲笑される偽善

食堂がざわめく時間。私は一人部屋だから必然的に食事の時も一人で来る。

「やぁ、イリスちゃん」

「アルバロ」

「今日の色は蒼にしたんだね」

「私の髪なんだから関係ないでしょ」

「相変わらず気味悪い笑顔なこと」

「いきなり気味悪いだなんて、ひどくない?」

ありきたりな反応でも、彼を知っているなら本心から思っていない事は分かる。

「相手が貴方なら心は痛まないよ、ね?ルル」

「相手がアルバロだとね」

「二人とも冷たいねー」

誰かと食べたいとは特に思っていない。半分は成り行きに任せている。

ただイヴァン先生とヴァニア先生に紹介されたルルには、何かと愛着が湧くから誘われれば断るつもりもない。私の中で彼女だけは別格。

隣の奇抜な男…アルバロに限っては、あの夜から何も言わなくても出てくるようになった。

「ルルにアルバロ、イリスもどうかしましたカ?」

「なんでもないよ、ビラール」

「ソレならイイのデスガ…今日の色も綺麗ですヨ」

「それはありがとう」
ビラールとはいつもと変わらない会話。周りも慣れたもので、各自の食事を中断せず視線をこちらに走らせるだけ。

「ところで、ラギはどうしたの?」

同室ということに加えてサボり癖のあるラギはだいたいビラールと行動している。

「彼ならユリウスたちと一緒に…」

ビラールの向いた方向のテーブルで、ラギがまだなのかと視線で訴えている。既に彼自身は軽く何皿も食べ終えている様子。

その一方で読書をしながら食べてるユリウスと相変わらず文句を言い続けているノエルがいた。自分の世界に旅立っている彼に説得するだけ無駄だろう。

それを無視しながら、エストは一人黙々とサラダを食べている。

呆れた様子で眺めていたラギが、ふとこちらを見てルルに声をかけた。

「早くしねぇと食う時間なくなっちまうぞ」

「すぐそっちに行くわ」

意識を戻せば手をぎゅっと握ったルルがもう一度言葉をかけてくる。

「イリスも一緒に食べましょう」

「いいよ」

ルルの誘いは断らない。ほぼ必ず返事は承諾のみ。

それがまた面白いとでも言うように、アルバロは唇を緩めていた。そんな彼を見て邪険にする訳でもなく、干渉もせずに眺めていた私は密かに楽しんでいる。


「ラギの所でいいんだよね?」

「そうよ。早く行きましょ!」

幾許か年下とはいえ可愛らしいものだ。先生達に頼まれた事もあって周りよりも意識してしまうし、それを別にしても可愛がってあげたい。女の子なら楽しませ方はいくらでも浮かんでくる。

…自分にも昔はそんな頃があった、なんて思えないけど。

「イリスちゃん、俺にだけ冷たいよね」

「アルバロに優しくする意味ないでしょ?」

「やってみないと分からないじゃない」

「それだと面白くないもの」

歩きながら今更そんなことを告げるなんて馬鹿らしい。優しくする類が普通のそれなら、飽きるくせによく言うものだ。退屈なごっこ遊びに乗るだけ時間が浪費されるだけな事は明白。

「君は何が面白いと思うのさ?」

「面白いなにかはピエロ次第で変わるよ」

「ピエロって俺の事?」

「うん。当たってるでしょ?」

「んー、ピエロかぁ」

「だから早く楽しませて」

飽きた会話を打ち切って、会話を入れてもらおうとルルに抱きついてみた。

「きゃっ!?…驚かせないで!イリス」

クスクスッ

「そんなに驚くとは…思わなくて」

「もうイリスったら!」

「ねぇ、今はどんな話してたの?」

頬を膨らませたルルも可愛いとしか言いようがなくて、ぎゅっと抱きしめながら問う。

「えーっと、ノエルが…」

「またアイテムに引っかかったんだよな?」

「ハイ、いつもと同じようニ」

「それがノエルの良いところだよ」

「はぁ…飽きもせずよく行きますね」

嬉々として告げるラギに同意するビラール、全然フォローになってないユリウスと冷静に言い切るエスト。彼は友人たちに弄られる運命のようだ。この時間は自分が手を出さなくても愉快に違いない。

「わーわーわーっ!」

「ちょっとノエル、うるさいよ」

気持ちは分からなくもないけど、ここは弄らないとつまらないから無視しておこう。

「ルルは話さなくていいからな!」

確かに女の子に言われたら、傷つくものがありそうだが…同じ店で毎回失敗してるのに、それでも彼は好んで足を運んでいるのだから仕方ない。

「どうせ買うの失敗したんでしょ」

「そうなの!ノエルったらまた」

「やっぱりそうなんだ」

「あ、あれは僕のせいじゃないんだ!」
頑なに認めようとしない彼は、失敗を皆に言われて赤くなりながらもまだ反抗するらしい。

「へえ…じゃあノエルは何をしたの?」

「うっ」

赤くなっていた顔がみるみる青ざめていく。そんなに想像するだけでも恐ろしい事だったのかな?自分に関係ないとこうも簡単に思い浮かぶ。人間ってこんなにも変化するんだと、つくづく思い知らされる。

「ふふっ、ノエルらしいわ」

「ルルにも笑われてるよ、ノエル」

「う、ううるさい!見れば分かるぞ!」

「あえて言ってるからね」

「なっ!?イリスまで奴と同じなのか!!」

奴と言うとこの場合はアルバロか。似てないと言えば嘘になるだろうけど、私なら彼ほど害はないと思うんだけどな。

「アルバロの方が私よりも弄ると思うよ、ね?」

「俺よりイリスちゃんじゃないの?」

振り向いて背後に向かって聞けば、彼は軽い口調で答えてくる。気配を感じていたから驚きはしない。…なんで椅子に座らず私の背後に来るかな?

「アルバロ」

「ゲームは君が勝てるかな?」

立ち止まっていたアルバロは私に聞こえるか否かの声で一言零してから会話へ混ざる。

さっき一瞬だけ浮かべていた笑み。すぐに隠された鋭さが混ざっていたソレに私も笑顔で返した。


title by 空想アリア







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