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 夕暮れ時の恋患い

あなたに会うと嬉しいと思ったり、その声を聴くと少し気持ちが痛い。

本当はずっと苦しかった。もしかしたら、僕は素直に求める事ができたのかもしれない。でも守るには、拒むことしか知らなかったから。

懐かしさを胸に、オレンジ色の空を眺めていた。

「ルル。気をつけないと転びますよ」
「分かってるわ!」
「なら、ちゃんと前を見てください」

こんな風に注意しながらも、可愛いと思う自分もだいぶ変わった。

「いつもあなたは心配症ね」
「事あるごとに巻き込むのは貴女でしょう?」
「ふふっ、エストを信じてるのよ」

オレンジ色の空を背景にして、弾むように歩く彼女の姿。それだけで微笑ましいと、幸せを噛み締める僕は欲張りになったものだ。

「どうしたの?」
「はしゃぎすぎですよ、ルル」

明るくて優しいのは長所だと思うけど、誰にでも笑顔を見せていると思うと不安が過ぎる。それだけ可愛いと、綺麗になったと思う。

「あなたと一緒だから楽しいの!」

嬉しそうにそう答えた彼女は、質問の意図を理解していないのだろう。

先程からその様子が周りの視線を集めている。だから、「僕から離れないでほしい」という意味を込めたつもりだったのだが…

「そんなに楽しいですか?」
「楽しいわ!足りないくらいよ」
「では…手を繋ぎましょう」
「えっ、いいの?」

驚きながらも、頬を染めて振り向く彼女。長い髪を舞い上がらせたルルは、満面の笑みで僕を魅了する。そしてまた、幸せが一つ増える瞬間だった。

「嫌だなんて言わせませんよ」
「そっそんな事言わないわ…」
「他に何か言いたいことは?」

最近はよく見かける真っ赤な顔で、下から見上げる様子も愛しいもの。

「エストがかっこいいから…いけないのよ」

なんだかんだで手を繋ぐのだから、お互いに好きあってるんだなと感じられる。

「これからはずっと隣にいます」
「エストの隣は私だけの特別ね」
「あなただけの特等席ですよ」

握った手から伝わる体温に、安らぐのは僕だけでいい。

笑顔を向けてくれるのも、独占したいと思うのも、その一瞬だけは世界を切り離してあなたが僕を見ている。そう思っているから。

「嬉しいわ!いつも隣にエストがいるのね」
「そんな事は当然でしょう?」
「うん!私も離さないわ!」
「ありがとうございます」

あなたが想っているよりも、ずっと。ずっと僕はあなたが恋しくなる日常。

いつも会いたくて、あなただけが呼ぶ名前を響かせて欲しいと願う。

「僕はルルがいないと落ち着きませんから」

あなたがいなくても平気な僕は、何処かに去ってしまった。

「エストが離さない限り、いつも側にいるわ」

今は僕の好きな表情で告げた彼女に、苦笑を返すしかない。恋人になってからというもの、彼女がいろんな意味で心配すぎる。

ラティウムに出てきた時も、夕陽のオレンジ色が僕たちを照らすのも日常生活に馴染んだ。その度に視線を集めるのも定番で、複雑なことにルルは気づかない。

「ありがとうございます、ルル」

小さな事にも嫉妬してしまう…幸せな悩みが尽きない時間を過ごす僕は、叶わないと思っていた幸福を味わっているのだろう。

自然と笑みを浮かべられるのは、全て貴女のおかげです。


今日も夕陽に向けてそう思う。幸せを抱きしめる瞬間、穏やかな時間が流れていく。




企画提出文*愛と恋の狭間で






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