秘密の片想い、
湖畔は一人で過ごしたい時に最適な静かな場所。
頻繁に来ている僕は魔導書を抱えて、ちょうど良い木陰を探していた。
「どうして、僕がルルに悩んでるんだ…」
叶わないと思っていた想いが伝わってから、彼女は以前にも増してポジティブに行動するようになった。そして、僕に無条件の愛情を与えてくれる。
それは嬉しくてしょうがない事だけど。正直、僕にはまだついていけない。
「……はぁ…」
誰もいない湖畔に映るのは紛れも無く自分の顔で、とても不満そうな表情で現実の僕を見ている。
「まさか、こんな気持ちになるなんて思わなかった」
まだ上手く接することが出来ない、でもだからといって甘えてばかりなのは複雑な気分になる。
「エスト、見〜つけた」
「なっ…ルル!!」
「ん?」
何食わぬ顔で駆けてきた彼女は当たり前のように僕に飛びつく
「貴女には何度も『抱きつくな』と言ってるでしょう!」
「……そんなこと、言われたかしら」
話が噛み合わない。この人は人の言うことを全て聞き流すつもりなのでしょうか。
「人の話を聞いてくれませんか」
「大切なことはちゃんと聞いてるじゃない」
「ですから今ですよ、今」
「知らな〜い」
掌で耳を覆う彼女を見ていると自分が悩むだけ無駄に思えてきた。
「聞こえない振りなんかしないでください」
「エストがいじめるからだもん」
「この場合、いじめてるのはルルでしょう」
「うっ…じゃ、じゃあエストも私に抱きつけばいいのよ!」
「は!?無理です、無茶です、出来ません!」
どうも彼女は考え方が単純すぎるというか、幼すぎて困る。二人きりならマシだろうけど…堂々と出来たらこんな苦労しない。
もっと触れてみたい…それは自覚してる。素直になりたいと頭で思っていても身体が拒否するのだから苦笑するしかない。情けないけれど、結局は慣れていくしかない。
「どうして?それで解決でしょう?」
「そういう問題じゃないです!僕にだっていろいろと…事情があるんです」
「でも、私には分からないわ」
クスクスッ
「分かっていてルルが今の調子なら、貴女は酷いですよ」
小さく笑いながらそう言えば大きな蜂蜜色の瞳が見開かれた。それは予想通りの事で、彼女の性格から考えれば当たり前の反応を返される
「えっ、そ、そんなに?」
「自覚があれば、の話です」
まるで言葉をそのまま受け止める子供が焦りだすみたいで可愛いと感じる。こういう時ばかりは本気で僕より年下なんじゃないかと思う。
『まぁ、ある意味で既に酷いのかもしれませんね」
「え!?私って酷いの?」
「そんなことは貴女が自分で考えてください」
「やっぱりエストって意地悪だわ」
それを聞いてさらに微笑んでることが、彼女は不満な様子で頬を膨らませている。
「意地悪で構いませんから、あえて教えないでおきます」
出来る限り、他人との接点を消していた僕が決めた大切な人。意地悪になるというだけで、僕だけが可愛い表情を見られるなら嬉しい限り。
「ルルが自分で気づくまでは秘密にしておきますよ」
作り笑いではなく、心から微笑むことが出来るのは貴女のおかげ。
-幸せが心を包む、一つの秘密を隠して-
秘密の片想い、水面に映った僕の顔は(なんて情けないのだろう)
title by 秋桜