素直になれなくて
廊下に響き渡る少年少女の声音
それは決して穏やかなものではないけれど、周りからしてみれば可愛らしい口喧嘩だった
「エストのいじわる!」
「あれは条件反射です」
「でも…」
「仕方ないでしょう!すぐには直せないんですから」
毎回私が探して見つけた途端に、彼は背を向ける。それがいつも寂しくて嫌で、もちろん、生い立ちを考えれば仕方ない事
「僕は何度もルルに言っていますが、公共の場で名前を連呼したりしないでください」
だからって恋人に毎回やられたら、誰だって辛いに決まってるわ。顔を見る度に大好きな人に逃げられるなんて、私には悲しい以外に言いようがないもの
「それはエストが回れ右するから仕方ないと思うの」
「ルルが僕を見つけた時に、飛びつかなければ逃げません」
だって身体が勝手に動いてしまうのにどうすればいいの?それこそ彼と同じように条件反射なのに
「私ももっと気をつけるから、貴方も気をつけて」
「………善処はします」
「いつも背中を見るだけなんて嫌なの」
「分かりました…から」
距離が縮まったと思えば、彼が私を抱きしめていた。
「そんな顔しないでください」
「エスト?」
「僕だって…努力しようとは思ってますから」
「うん!」
背丈が私と同じくらいだからなのか、彼の鼓動がよく伝わって心地好い。幾分早いそれはきっと私と同じ気持ちなんだろうと想像してしまう。
「慣れるまでは待っていてください」
「どれくらい?」
「しばらくはかかります」
「えー…」
「ルルには分かっているでしょう!僕には精一杯なんです」』
クスクスッ
「ちゃんと待ってるわ」
「……わざと言いましたね、ルル」
「ふふっ、エストが取り乱してるから」
小さく溜息をついて彼は苦笑してる。
「貴女相手なんですから仕方ありません」
「それは素直に嬉しいと思うわ」
私しか知らない素顔があるなら、今はそれだけで幸せだから。