私と彼の日常会話
食堂での風景はいつも変わらない。
私がトレーいっぱいの昼食を食べる隣で、彼はサラダをモソモソと口に運んでいる。
「エストって、サラダ以外のものを食べないわよね」
「必要最低限で十分ですから。そもそもルルの基準は僕と違います」
「それだけじゃ、身体によくないわ」
いくら個人差があってもサラダしか食べないのは心配して当然だと思うの。
「まだなにかあるんですか」
ジーッと見ていたせいか、不満そうな表情を浮かべた彼がこちらを不満そうに見ている。
「私のおかずをエストに分けてあげようかなって」
「必要なっ…ん!?」
クスクスッ
「美味しかったかしら」
「ひ、人の口に、いきなり突っ込まないでくれませんか!」
みるみる真っ赤になっていく彼は幼くて可愛らしくも感じた。
「こうでもしないと食べないのはエストでしょう?」
「うっ………』
口ごもることなんて滅多にない事だから、気持ちを表情に出すことが増えて余計に嬉しくなる。
「それに私の大好きなおかずだもの、エストもきっと気に入るわ」
「まったく貴女は…何故そんなに自信が湧くのでしょう」
一瞬、苦笑いを浮かべた彼は呆れたように言葉を紡ぐ。けれど次の瞬間には嬉しそうな微笑みを浮かべていた。
クスクスッ
「これが私なんだもの。いまさら変えられないわ」
「分かってますよ、それくらい」
魔導書を見遣ってから、彼はこちらに視線を向けている。
「それ…もう少し、貰っても構いませんか」
恥ずかしそうに、視線が示したお皿は私が分けたおかずが盛ってあるもの。
「分けてくれるんでしょう?ルル」
「もちろんよ、エスト!せっかくだからいろいろ食べてみてね」
初めて逢った時からしばらくは不機嫌そうで、どこか感情をしまい込んでいた彼が少しずつ自分の気持ちを表わしてくれる。
「一度にたくさんは無理ですよ」
クスッ
「今日は昨日よりも、エストが好きなれて良かったわ」
ボソッ
「…僕も……ですよ…」
「エスト?」
小さな囁きはあっという間に消えた
「なんでもありません」
「それならいいけど…」
瞳を閉じれば思い浮かべるばかりだった彼が、目の前で笑顔を浮かべているだけで幸せだと思うわ。
それだけ私は彼に夢中なってしまったから。
だから、さっきの囁きも本当は聴こえていた事を言わない。滅多に言われない一言に、不覚にもドキッとしたのは秘密にしておく。
-…僕も好きですよ、ルル-