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言葉の呪縛に冒されて

愛情など何処にもない過去

【幸せなんて、眩しい光は決して訪れはしない】と心を押し殺していたのに。想いを隠す事で自分を保っていたなんて、考えられない。

彼女によって未来を夢見た今では…

「エストー!!」

駆けてくる足音とともに呼び声が近づいているのは気のせいだろう

こめかみを押さえながらも身体が即座に回れ右をするのは、もはや条件反射になってる

「ちょっ、エストってば聞こえてるでしょ!」

「…………………」

あれほど公共の場で大声を出してまで呼ばないでくれと頼んだはずなのに、その度に頷くルルはやはり聞いてはいない

悩む間にも彼女は距離を縮めていて、歩く僕はすぐに追いつかれていた

「なっ!!」

後ろからギュッと抱きつかれたかと思えばそのまま勢いで一緒に倒れ込んでしまう

「ふふっ、やっと捕まえたわ」

「…はっ、離れてください」

好きだと認めることに怯えていた事実が嘘に思える

「絶対に離れないもの」

眩しいくらいの笑みで告げた言葉を表すように、身体に回された腕がさらにギュッときつくなる

「エストがいけないんだもの」

「い、意味が分かりません。というか、なんでさらに力を込めてるんですか貴女は!」

「だって、また逃げるでしょう?」

だから…、と続ける理屈が理解できない。毎回見かける度に飛びつかれる気持ちを分かっていない

「ルル…もう少し時と場合を考えられませんか?」

「うー、頑張ってみるけど」

「けど?」

「貴方を見つけたら自然と動いちゃうのよね」

悪びれた様子もなく、ただ照れたように頬を染めて微笑んでいる

「本気で嫌なら、ちゃんと我慢するわ」

僅かに肩を落とすルルは他人からは僕がいじめているように見えるだろう

「嫌…ではない、です。むしろ」

こんな事には慣れてないから余計に恥ずかしく感じてしまう

「ですから、貴女に抱きつかれるのは嫌ではなくて…」

蜂蜜色の瞳が期待するかのようにこちらを見てる

「むしろ………好きですよ」

「本当の本当に?」
「いまさら冗談なんて言いません」

あんなに恥ずかしい思いをさせておいて貴女はまだ疑うんですか

「またギュッて、してもいいの?」

「たまになら…構いませんよ」

「ありがとう、エスト!」

そしてまたルルがギューッと抱きついてくる。僕の鼓動は早鐘を打ち、その度に同じ事を思うのだ。

「だ、だからって今は抱きつき過ぎです!」

クスクスッ

「だって嬉しくって」

「……少しは我慢してください」

「無理よ!エストが好きすぎて仕方ないんだもの」

本当の意味で勝ち目はないのだろう。

「ルルには勝てませんね」

その言葉は幸福の呪縛で、この身は縛ってしまう。

それがどれだけ幸せな事なのか。1番理解してるのは自分だと、信じてしまう僕はすでに縛られている。


title by 夜風にまたがるニルバーナ






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