恋の仕方なんて知らなかった。
誰かを意識していく。
大切なモノ、守りたいと思う人ができたという事。
それは良い意味でも悪い意味でも自分に影響を与えるもの。
「エストエストー」
「ルルは毎回僕に関わらなくてもいいと思うのですが」
「私はエストと仲良くなりたいからいいの!」
「まったく…貴女という人は…」
喜んで話しかける様子に、なんだか温かい気持ちになる
その理由はきっと頭では分かってるけど、まだ認めたくなかった。
「エストー!」
「用件はなんですか、ルル」
関わらないように注意していたつもりなのに。無意識に探してしまうほど、彼女が隣にいる方が落ち着くことに自分でも驚くばかり。
‐エストはエストだもの、他の誰でもないわ‐
彼女だけが僕自身を見てくれたから?
疑問に答えるモノは何もいない。
「一緒に帰りましょう!」
そう言って手を握る彼女にも慣れてきたものだ。日常茶飯事とも言えるそれに慣れるのは必然的だろう。
その日もいつものようにミルスクレアの城壁近く、小さな花壇の側を二人で歩いている。
「ルル、」
「あのねっ」
立ち止まった彼女は笑みを浮かべて、掌を差し出す。
「今日はエストに渡したいものがあるの」
プレゼントよ、と受けとったのはシンプルなブレスレット。
「これは何ですか?」
「私が魔法で作ったブレスレットよ」
それくらいは見れば分かりますが…
「ルルが僕にこれを贈る理由が分かりません」
「プレゼントの理由?」
少し考え込んで、ぶつぶつと呟きを繰り返してこちらを見ている。
「えーっと、理由はエストにあげたいなって思っただけなの」
「そうですか…わざわざありがとう、ございます」
「ふふっ、どういたしまして」
幸せそうに微笑む姿はとても可愛らしい。
そう思ってしまうあたり、この感情に負けたも同然。
恋というにはあまりにも曖昧な、けれど幸せな気持ちが生まれた瞬間。
「エスト?帰らないの?」
帰り道を歩き始めた彼女を追いかける。
「ちゃんと帰りますよ、ルルと一緒に」
恋の仕方なんて知らなかった。だから無防備に恋に落ちた。
title by 確かに恋だった