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きみがくれた存在証明

「レーナ・アンブラー」

口ずさんだのは馴染みのある定型詞。それと共に生まれた光は闇を象徴する紫色。

中途半端に唱えられた魔法の欠片は、すぐに空へと融ける。

「何かするの?」

「…別に。何もしませんよ」

なんとなく無意識に口ずさんだソレ。

“無“であった僕に刻まれた、彼らの作品だという証。紡ぐ呪文に身体を這う魔法の文字が僅かに疼く。

「私も何かしてみようかしら」

ルルはどこか楽しそうに杖を取り出して言葉を紡ぐ。

「レーナ・アンブラー、」

優しく包み込むような闇。それは彼女自身を表すように、どこか温かさを感じる。

「ルル、少しいいですか」

「なに?」

「あればで構いませんけど…何か欲しい物はありますか?」

気が向いたから、発端はそれだけ。

「エストがそんな事を言うなんて珍しいわ」

「たまたま気が向いただけです。ルルが嫌でしたら、」

「嫌だなんて言ってない!」

「大声で言わないでください」
いつだってあなたよりも僕の方が恥ずかしくなるんですから。

「でも1番欲しいものは、もうあるのよね」

空を見上げてどうしたものかと悩む姿に、少し寂しさを感じてしまう。

「そう、ですか」

「エストったら、悲しい顔しないで」

「そんな顔してません」

クスクスッ

「ふふっ」

「わ笑わないでくれませんか」

「だって、珍しく拗ねてるから…つい」

ルルは肩を揺らして、漏れる声は嬉しそうだった。僕に笑顔を向けてくれる。それだけで先程までの気持ちが晴れていく。

「私はあなたがくれるなら、なんだって嬉しいわ!」

「で、ですから、何が欲しいかと…」

チュッ

「エストの隣を、あなたの時間をちょうだい」

さらりと告げられた欲しいもの。よく言葉を考えれば、熱烈な告白にも聞こえるソレ。

「…それがルルの欲しいものなら、いくらだってあげます」

クスッ

微笑を浮かべるあなたは、自信たっぷりという様子で隣を歩く。ちらって見えた耳元が赤いのはきっと間違いではなかったはずだ。

「どうかした?」

「なんでもありません」

喜びを分かち合えたことに、静かに口元を緩めた。


title by 確かに恋だった






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