「…キラー?」
「なんだ」
「そろそろ離してもらえるか」
「駄目だ」


ぎゅうう、と更に強まる拘束に苦笑するしかない。キラーに抱き締められる事は嫌な訳でも鬱陶しい訳でも無いが、もう三十分も丸々これでは色々ともたないのだが。


「何処にも行かないから、少しだけ緩めろ」
「…駄目だ」
「なんで」
「ペンギンが好きすぎて苦しいからだ」


キラーのくぐもった声。恥ずかしげもなくよく言えるものだと感心する。否、この場合恥ずかしがるべきなのは、そんな事を言われたおれの方か。


「こうして抱き締めていないと、ペンギンが好きすぎて心臓が潰れそうになる」
「それは、…どうしようもないな」
「だろ?」


だからもう暫く、おれが満足するまでこのままだ。微かに笑ったキラーの吐息が耳元を擽る。くすぐったくて身を捩れば、逃げると思われたのかキラーは腕の力を強めた。


「…ペンギン」
「分かってる、逃げたりしない」


拗ねた子供のような口調に思わず頬が緩む。宥めるようにさらりとした金髪を撫でてやると、安心したのか僅かにキラーの体から力が抜けた。呼吸がしやすくなってこちらも一安心だ。


金髪に指を絡めたまま、至近距離にあるキラーの耳から首筋までを眺める。ピアスの穴も無い、綺麗な形の耳。すっきりとした顎のラインと、流れるように続く鎖骨までの筋。
今は見えない瞳も、蒼く澄んでいて美しい。長い睫毛も通った鼻筋も薄い唇も、キラーを形作る全てが反則的なまでに整っているのだ。本来惜し気もなく晒すべきそれを、普段は妙な仮面で隠す辺りがキラーの一般人との違いなのだろうか。


それにしてもこの男は何処までも美青年を地で行くのだなとぼんやり考える。おれでは釣り合わない。平々凡々を貫くおれとは雲泥の差、とでもいうのか。自分で言っていて悲しくなる。
そうは思いながら、キラーがこうしておれを好きだと、独占したいと思ってくれるのは素直に嬉しい。他の連中には愛情表現が分かりにくいと言われるけれど、キラーはおれの気持ちを分かってくれる。言わなくても伝わっている。それがどんなに幸福なのか、おれはキラーに教えてもらった。


「…キラー」
「うん」
「………なんでもない」
「分かってる」


ほら、まただ。おれの顔色を読み取って、幸せそうに笑う。それだけでおれもじわりと心が暖まるのだから、もうどうしようもない。


こちらからも強く抱き締め返したら、キラーがぽつり、幸せ、と囁いた。





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行き当たりばったりなこのサイトも、なんだかんだで1歳を迎える事が出来ました。更新頻度が少ないにも関わらず立ち寄って下さる方々、本当にありがとうございます…!(土下座)
拙い管理人とサイトでは御座いますが、
これからもどうぞよしなにしてやって下さいませ!

(20130404)


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