「…『ソレ』がお前のお気に入り、か?」
「あァ。悪くねェだろ」
「……」


色濃い紅を引かれた唇。白い肌に映える青痣。それを隠すティールブルーのマーメイドドレス。漆黒の流れるような髪と、長い前髪から覗く紫色の瞳が印象的。珍しい色合いを組み合わせたその女は、ドフラミンゴの『お気に入り』だった。




良い物を見せてやると言われて招かれたのは、ドフラミンゴの経営する大規模なカジノの地下二階。スタッフの仮眠室や食料庫を通り過ぎ、電球の切れた小さな小さな部屋の扉を開いた時には流石に騙されたかと思ったが、そんな疑念は杞憂だった。
居たのだ。暗く埃っぽい部屋で唯一綺羅びやかな赤いソファに横たわる、痩せ細ったその女。およそ健康体とは程遠い、酷く病的な美しさを持った女。


これでは一晩もこの男の相手は務まらないだろうと思った。簡単に呆気なく壊れてしまうだろうと。しかしこの女をもうひと月も此処に閉じ込めているのだと言う。あまりにも長い。飽きっぽいドフラミンゴが、こんなにも長く囲った女が居ただろうか。首を捻って考えてみるが、やはり思い当たらない。もって三日だ。それ以上はこの男の乱暴な扱いに耐えきれない。精神的にも、肉体的にもだ。


じっとこちらを見据える女を、こちらも負けじと見返した。その眼孔に光は失われていない。強い女だと、そう感じた。


「聞いて驚けクロコちゃん、この女はまだ処女だ」
「…ア?」
「だから、誰にも抱かれた事ねェんだって」
「…お前の、玩具じゃねェのか」
「おれのモンだけど、別にソッチの玩具じゃねェんだな。最初はそのつもりで拾ったんだけどさァ、なんか抱く気にならなくて」


あの紫の瞳、あれに見つめられると縮こまっちまう。不思議だよなァ。ドフラミンゴの愉しげな声に、女は不快感を隠しもせず眉を潜めてみせた。白いその頬に触れようとしたドフラミンゴの指を、女は忌々しげに払う。ダルそうに持ち上げられた彼女の腕からはじゃらりと重い音がした。一応鎖で繋いではいるようだが、大した拘束力は無さそうだ。細腕に絡み付く鎖は、この部屋を自由に闊歩するには十分な長さだった。


「だから飼ってる。退屈しのぎにな。飽きるまで、って思ってたんだけど、これがなかなか飽きないんだよなァ。このおれがよ?」
「そりゃ珍しい。気紛れがよくひと月も続いてるモンだ」
「変だよなァ。あれか、やっぱりこの瞳に惹かれてんのかな。見れば見るほど深い色なんだぜ」
「……確かに、滅多に見ない色だが」
「…飽きても、瞳だけ抉って取っとこうかなァ」
「そうしろ。高値で売れるだろうよ」
「売らねェよ、勿体無い」


物騒な会話の最中も、女はじっとして黙っていた。冷めた紫でおれとドフラミンゴを交互に見て、怨みの籠った視線を送る。こちらが凄んでも引いたりはしない。大した女だ。


「…で、これをおれに見せてどうすんだ」
「…ん?」
「ただの自慢か?」
「……いや?綺麗なモンをお前と共有したいと思ったから、だな。ほら、おれには分かんねェけど絵画とか、金持ちはよく一緒に鑑賞すんだろ」
「…一緒になって愛でろってか。おれには向かねェな」


ふん、と鼻で笑って女を見下ろした。よくよく見れば剥き出しの肩が震えていて、この部屋の温度の低さを思い出す。寒いのか。そうならソファの下に投げ捨ててある毛布でも被れば良いのにと思ってから、ドフラミンゴの匂いのする布切れなんざ欲しく無いのだろうという考えに辿り着く。自分がそうなのだ、気持ちは分かる。
おれの思考を知ってか知らずか、ドフラミンゴはくつくつと喉で笑った。


「あァ、おれのことは嫌いみたいでな。良かったら相手してやってよクロコちゃん」
「…は」
「多分お似合いだぜ」


にたり、細められた瞳がサングラス越しにおれと女を見る。マジな浮気は駄目だけどな、と付け足した男が酷く憎らしかった。
ちらりと女へ視線をやれば、綺麗な紫がおれを品定めするように見つめていた。


「……馬鹿か」


女へか男へか、吐き捨てた言葉は、果たして意味を持っていただろうか。





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ドフ鰐+美人な女性 が大好きなんです…
(20130608)


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