ふざけやがって、と怒りに任せて振り上げた筈の左腕は、相手の皮膚に届く事なくだらりと垂れ下がる羽目になった。そこから体がぴくりとも動かない。
原因は解りきっている。こちらが腕を挙げた瞬間に、にんまりと厭らしい笑みを浮かべながら、ドフラミンゴは長い指を微かに動かしていた。例のイカれた能力を使われたと、脳が理解した時にはもう遅い。
奴が大人しく攻撃を食らってくれる筈もなかった。当然の事、だったのに。


頭に血が上って、冷静な判断を欠いた。全身の自由を奪われた、この状況は完全に自業自得なのだ。
目の前の桃色の塊を睨み付けるけれど、誰もが竦む金色の眼光ですら、生憎この男には効果が無いようだった。


「いきなり怒るなんてひでェな、クロコちゃん?」
「…っる、せェ…!テメェのせいで五億がパーだ、どうしてくれる…!!」
「あァ?五億の取引くらいおれが仲介してやるよ。そんなのよりもっとアンタに美味しい話を持ってきてやってもいいくらいだぜ」
「そういう問題じゃねェ!ただ金が動くだけじゃ無かったんだ、今回は…!!」
「あー、土地がかかってたんだっけか。つっても、彼処はンな魅力的な場所かァ?おれにはよく分からねェな」


ドフラミンゴに今回の商談について漏らした情報はゼロの筈だ。だが先程の口振りからして、奴は自分が欲していた土地の場所すら知っている様子だった。
相手側がこの商談を打ち消そうと何か吹き込んだのだろうか。それとも独自の情報網で嗅ぎ付け、ただの戯れで取引の邪魔をしたのだろうか。どちらも有り得ない話では無い、そしてどちらでも腹立たしい。


直ぐにでも問い詰めたいが、その真理を本人に聞くのは馬鹿のする事だ。ドンキホーテ・ドフラミンゴ、この男が正直に全てを語る訳も無い。ドフラミンゴにとって、真実を語りつつそれに虚偽を織り混ぜる事は、息をするのと等しく易い。


そんな奴にマトモな質問をぶつけても無駄だ。どちらにしろ商談は完全に決裂した。もう何もかもが手遅れなのだ。


「…てめェは、どれだけおれを馬鹿にしたら気が済むんだ…!!」


吐き出した声は低く、結局八つ当たりのような易い言葉しか紡げない。
ドフラミンゴはおれの様子を愉しげに見下ろして、甲高く鳴いた。


「は、別に馬鹿にしてェ訳じゃねェんだけどな。おれはお前がおれ以外に興味を持つのがムカついて仕方無ェだけだから」


だから頼むよ、おれだけを見ておれだけを愛して。戯れ言を叫んでおれを抱き寄せて、いつものように下品に笑う。
今すぐにでも砂にしてやりたい衝動を押され切れないまま、おれはまた一つ、この男を殺す理由を頭に刻み付けた。



(20121029)


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