「せーんーちょー!!!」


草木も眠る午前零時。バン、と勢い良く開け放たれた自室の扉に驚く。
読んでいた本から顔を上げれば、視界いっぱいに愛すべきクルー達の姿があった。
誰もが一様ににんまりとした笑みを浮かべて、そわそわと落ち着かない。首を傾げてやれば、先頭をきっていたシャチが口を開いた。


「遅くにすみません、船長」


シャチがニカッと笑ってそう断ると、次の瞬間にはせーのと声を合わせて全員が叫ぶ。


「船長、お誕生日おめでとうございます!!」
「……あァ」


そうか、と納得してカレンダーを見れば、十月の六日には大袈裟なくらいの赤丸が付けられていた。こんなの自分で書いた覚えは無いから、恐らくクルーのうちの誰かがやったのだろう。


「あれ、船長反応薄いっスよ」
「もしかして忘れてたんじゃねェっスか!?」
「日付確認しない癖どうにかして下さいよ!折角分かりやすくマル付けたのに」


口々に文句を紡ぐ、その顔は皆ニヤついている。全くどいつもこいつも、人の誕生日で浮かれすぎだろう。そう頭の片隅で思うけれど、祝ってくれる事は素直に嬉しくて堪らない。自然と溢れてしまった笑みに気付いたらしいベポが、「キャプテンおめでとう」と抱き締めてくれた。


「ふふ、悪ィなお前ら…、…ありがとう」
「アイアイ!キャプテン、今日はずーっと宴会だよ!!」
「バンがいっぱい料理作ったんスよ!好きなだけ食って飲んで下さいね!」


食堂で今から大宴会を行うからと、クルー達は楽しそうにおれを部屋の外へと導いた。
ベポに連れられながら食堂に向かう途中、隣を歩くペンギンがおれに微笑みかける。


「船長、お誕生日おめでとうございます。こんな事言うのは恥ずかしいんですが、…本当に、感謝してもしきれないくらい感謝してます。おれだけじゃなくここにいる全員、あんたが生まれてきてくれた事を、出会えた事を幸せに思ってますよ」
「……あァ、こっちこそ。あークソ、なんだ、やめろ。照れるだろうが」
「いいでしょ、たまには。一年に一度なんですから」


真っ直ぐ見つめてくるペンギン、と、感じるたくさんの視線。これ以上無く優しい空間に浸かっている事実が本当に照れ臭くて、本当に幸せだと思えた。


自分の誕生日なんて、一年365日、何も変わらない日々のひとつだと思っていた。
特別で大切で、祝福すべきものだと知ったのはつい最近のような気がする。


祝ってくれる人がいる。生誕を喜んでくれる人がいる。それだけで十分に、生まれて良かったと感じる。


「船長、どうかまた良い一年を」


胸を埋める幸福に、気恥ずかしさに、ただただおれは包まれていた。



****
我らが船長、お誕生日おめでとうございます!


(20121006)


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