「ッしゃあ!!大漁、っと!」


釣竿を大きくうねらせて、シャチが叫ぶ。
太陽の光に照らされて輝く水飛沫が、甲板にいくつかの染みを作った。


ローはそんな様子を眺めながら、ベポの腹に背を押し付ける。


「キャプテン、今夜はおかずいっぱいだね!」
「そうだなベポ。でももし足りなかったらおれの分も食って良いからな」
「ええー、嬉しいけどそれじゃおれがペンギンに怒られちゃうよ!」


困ったように目を細めるベポの愛らしさに、ローはくすりと笑みを溢す。
冗談だ、自分の分は食うよ、ローが言えばベポはほっと息を吐いた。


「船長、ベポ、いっぱい釣れましたよ!」
「おー、よくやったなシャチ」
「お疲れ様ー!!」


シャチがはしゃいでバケツを掲げると、ぴしゃりと一匹の魚が跳ねる。
飛び上がった魚は一瞬宙を泳ぎ、再び狭いバケツの中へと吸い込まれていった。


「……カワイソウだな」
「へ?何がですか?」
「さっきまであんなに広い海にいたのに、今じゃ狭苦しいバケツん中だろ?」
「…釣ったおれに罪悪感を抱かせる事言うの止めてください船長」
「ふふ、悪い」


シャチが微妙な顔で呟いたのに、ローは笑って続ける。


「まあでも、ただ広い所よりは狭い所の方が安心感があるっつー考え方も出来るがな」
「…んー、確かに」
「おれも狭いとこ好きー!」
「その場合、広い海に投げ出されているよりは、この中の方が居心地良いかもしれねェな」


ちゃぷん、と波を立てるバケツを覗き込んで、ローはなあ?、と声を掛けた。


「…アンタら、今からその魚料理するってのにどんな会話してんだ」
「うお、ペンギン」
「…お前には慈悲ってのが無いのか?」
「白身魚嫌いなだけでしょアンタは。シャチ、バケツ寄越せ」


寄り固まって話をしていたら、突然現れたペンギンが話を止めた。
シャチが大人しくバケツを手渡すと、ペンギンはそれを持って船内へと向かう。


途中、思い出したように足を止めて振り返り、にこりと笑って言い放った。


「広い世界に居れば敵も増えるが、己を磨けば自由で安全に生きていける。怯えて狭い世界に居れば、こうしていつの間にか外部の強者に喰われて死ぬ。結局世界は何処に身を置こうが弱肉強食だ。海賊の基本だろう?」


「………」


静かな言葉は、波の音に掻き消されることなく甲板に響いた。
綺麗な笑みを張り付けて言ったペンギンに、シャチとベポはぞわりと震え、ローは腹を抱えて笑ったのだった。




(20120630)

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