「随分と綺麗な女を殺したんだってな」
「…あァ、中々に良い女だった」


美人で頭が良くて、あァ勿論ご奉仕も巧かったが、兎に角良い女だったな。ぽつりぽつりと、鼓膜に響くドフラミンゴの掠れた声。


おれは重ねて質問する。


「そんなに良い女なら、キープしておけば良かっただろうが。殺すには勿体無かったんじゃねェのか」
「確かにそうかもしれねェな。あんな女は滅多に見つからねェ」


サングラスに反射するオレンジ色の電球の光は、殺風景な酒場に微かな暖かみを与えていた。味の薄い透明な酒で唇を湿らせて、ドフラミンゴは続けて言う。


「けど、殺した瞬間が一番綺麗だと思ったんだよ。白い肌は更に白く、逆に白いドレスはじわじわ紅くなっていって」


ごくり、ドフラミンゴが唾を飲み込んだ。女の事を思い出しているのだろうか。


「お前にも見せてやりたかったぜ、鰐野郎」
「…そうか、それは残念だ」


おれはわざとらしく肩を竦めてみせた。
視界に映る、ドフラミンゴの女を想う恍惚とした表情。じわりと胸に滲んだ嫉妬は、口には出さずに押し止める。


「暫くはその女を想って愉しい夜を過ごせそうだな、ドフラミンゴ?」
「一人で楽しむのは虚しいけどなァ。今は他の女を抱く気にはならねェから仕方無いが」


くすり、微笑む顔は酷く艶やかだった。女の代わりに抱かれるのも、赦してしまいそうになる程に。


見つめていたら、ふと目が合う。ドフラミンゴは口元に笑みを刻んで小首を傾げるという、デカい図体に似合わない可愛らしい仕種をしてみせた。


「鰐野郎、お前はまだおれに抱かれる気にならねェか」
「丁度今それを考えてた所だ」
「おれならサーを満足させられると思うんだがなァ」
「クハハ、どうだか。気に入った女を直ぐに殺しちまうような男にゃ、黙って抱かれてやれねェなァ」


おれがそう言えば、ドフラミンゴは困った顔で薄い酒を飲み干す。


「お前の事は、殺したくはならねェよ。名前も知らねェ女と違って、お前の替えはいないからな」
「オイオイ、勘違いするな。おれァ殺されるのを畏れてる訳じゃァ無い。速攻で厭きて棄てられるのはごめんだって話だ」
「……クロコダイル、」
「Mr.ドフラミンゴ。お前がおれだけを一生飼い殺すというのなら、おれは甘んじてお前のモノになってやろう」


右手で強くグラスを握り締める。瞬く間に砂と化して流れていくそれを、見せ付けるように辺りに散らした。


カウンターの奥では老年のマスターが柔らかな笑みを浮かべてこちらを見ている。こちらも僅かばかり微笑んで、右手を軽く振ってみせた。


「悪いな、後日同じ物を送ろう。今夜は邪魔したな」
「…クロ、っ」
「帰るぞ鳥野郎。あァそれとも、今夜も死んだ女で一人遊びするのか?」


コートを羽織りながら、嘲笑うように尋ねてやる。煮え切らない様子だったけれど、おれが店の扉に向かって歩き出せば、結局はド派手なコートに腕を通して立ち上がった。


夜の煩いネオンに照らされながら、おれはドフラミンゴを振り返る。


「で?おれを飼う覚悟は出来たか、ドフラミンゴ」
「…いざそう言われると、なんだか構えちまう」
「ヘタレが。さっさと決めねェと二度と酒に付き合わねェぞ」
「……おれの好みはドのつくマゾ野郎だった筈なんだがな」
「それは失礼。ベッドの上では気を付けよう」


おれがそう言うが早いか、人外に強い力で引き寄せられた腕は悲鳴をあげる。


新しく火を灯した葉巻は、直ぐに地面に落ちた。




(20120801)


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