お誕生日おめでとう、なんて大声で叫びながら、おれはクロコダイルの自室のドアを蹴倒した。
時刻は午前零時丁度。自身の誕生日だというのに普段と変わらずデスクにべったりな社長を見て、堪らずそのデスクすらも蹴倒してやった。こんな大切な日に仕事なんてとんでもない。


床に書類が散らばり、流石に怒ったクロコダイルの手元で、小さく砂が踊り始める。おれはその砂ごと右手を強く握り締め、改めておめでとうと囁いた。
眉間に深く皺を作り、顔に色濃く不快を滲ませながら、クロコダイルはそれはどうもと呟く。それだけを言う為にわざわざ御苦労な事だ、なんて鼻で笑う。


おれはプレゼントも用意したのだと自慢気に言った。クロコダイルの手にワイングラスを握らせて、一口くらい飲んでくれと目の前でボトルを揺らした。


クロコダイルは品定めするようにボトルを見つめる。貼られたラベルをじっくりと読んで、知らねェ酒だとおれを見上げた。


そりゃそうだ、この酒はおれのオリジナルなのだから。製法は秘密、ベースもリキュールだって秘密だ。そう言ってやれば、ワインじゃねェのかとまた眉を寄せる。
クロコダイルが甘い酒を好まないのは熟知している。それを見越した上でのカクテルモドキだ。


そんなに甘くない筈だと笑いながら、おれはグラスへと濁った液体を流し込んだ。






ドフラミンゴの注いだ酒は、山牛蒡を潰して水で溶いたような、濁った紅紫色をしていた。少し色が明るいが、ワインに見えなくもない。あァだからワイングラスなのかと、なんとなく納得してしまった。
カクテルなんて普段飲む事は滅多にない。自分で作るのは面倒だし、作らせるのもまた面倒だ。


鼻先でグラスを揺らすと、甘い香りが鼻孔を突いた。果実とも花とも言い難い。何だと聞いても答えてくれる訳が無く、奴はただおれの様子を見て微笑んでいるだけだった。


ドフラミンゴが作った酒なんて、何が入っているのか疑い出したらキリがない。毒が入っていなければそれだけで上等だ。飲みたく無いのが本音だけれど、飲まなければどんな仕打ちが待っているか。


考え込んで手を止めていたら、早く飲めよと催促される。仕方無く少しだけ口に含むと、口内に広がったのは微かな甘さ。けれど確かに辛口ではあった。正直に旨いと思うが、何の味かはよく分からない。


香りと味が一致せず妙な心地がするし、結局どちらも元が何なのかハッキリしない。
舌の上に甘い後味を残して、液体は喉の奥へと消えた。


どう?と不安そうに顔を覗き込んできたから、悪くないと返事を返した。奴はおれの言葉に良かったと息を吐いて、口角を吊り上げる。
満足気に酒を継ぎ足してくるドフラミンゴに、変な薬でも仕込んでるんじゃねェだろうなと今更な事を聞いてみた。それに対して、間抜けな面でその手もあったなと言うものだから、可笑しくなって大声で笑ってやった。




「クロコちゃん」
「あ?」
「誕生日、おめでとう!!」




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Happy birthday Crocodile!!
\(´+++`)/

(20120905)

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