!注意
・船長がちょっとアレ
・報われない
・後味悪い




【診断T】

最近船長には恋人が出来た、らしい。
厳つい顔からは想像できないくらいに、優しく大切にしてくれる、らしい。


船長が楽しそうに、そして幸せそうに話してくれるのを、おれ達クルーは複雑な気持ちで聞いていた。


船長の話す恋人とは、キッド海賊団のユースタス・キッドの事、らしい。
船長は一目見た時からユースタスに心を奪われて、押して押してアタックしまくって、漸く恋人にしてくれた、らしい。


船長がユースタスに熱心になっていたのは確かな事実だったけれど、恋人になったというのを船長の口から聞いた時には驚いた。


だってユースタスは船長と恋人なんかじゃない。恋人には、ならない。照れ隠しでもなんでもなく、相手は本気で船長を否定していたのだから。


おれ達は気付いていた。これは船長の妄想なのだ、と。
そして自分の頭の中で創られた筈のそれを、船長は本気で信じ込んでいるのだと。


誰も訂正はしない。船長がそう思っているのなら、そう思い込んでいるのなら、それで良いのではないかと思う。
たとえ妄想だとしても、船長自身が、恋が報われたとそう思っているのなら。


ユースタスとの恋を語る船長がこれ以上なく幸せそうだから、おれ達はそれで良いのだ。


この時はただ、そう思った。






【診断U】

船長の話の中の彼等は、理想の恋人同士そのものだった。喧嘩をしたり、甘い言葉を囁きあったり、静かに二人きりの時間を楽しんだり。
その幸せを誰かに聞いてほしいのだと、照れ臭そうにしつつもおれ達に話してくれる。


たとえここ半年、一度たりとも会っていなくても。一度も連絡が来なくとも(そもそも恋人ではないから、連絡など来る筈も無いのだが)。
船長とユースタスは確かに気持ちを重ねているようだった。






【診断V】

ユースタスの事を語る以外、船長に異常は無い。以前と何も変わらない、強くて残虐で賢くて優しい船長だ。そのことが余計に、どうしようもない違和感を生み出す。


船長の精神に不安を覚えた船員の一人が、船長に訊ねたことがある。
まさかハートの海賊団を解散させようなどと、全てを捨てようなどと思ってはいないかと。恋に、ユースタスに溺れて、目的を見失ってはいないかと。


船長はあっさりと否定した。解散なんてさせない。おれは目的を見失ってはいない、と。
ユースタスのことは好きだけれど、それに関しては割り切っている。一番大切なのはクルーに決まっていると、船長は普段通りの笑みで言った。


病んでいるとは到底思えないしっかりとした発言に、おれ達はただ頷くしかなかった。
こんなに出会った頃と変わらないのに、どうしてこの人が病んでいるなんて信じられるだろうか。






【診断W】

そんなある日、とある島でキッド海賊団と出会した。ユースタスは部下を何人か引き連れて、夜の酒場で騒いでいた。
おれ達はそっと船長の様子を窺う。普段と変わらない顔色だ。ユースタスを捉えた視線は何処か熱を帯びていたけれど、それも一瞬だった。


よぉ、と軽く声をかけた船長。
船長を見て露骨に顔を歪めたユースタス。


緊迫した空気の中、一拍おいてユースタスは席を立ち、おれ達の横をすり抜けて店から出ていった。
その間、五秒と彼等の視線は交わらなかっただろう。


部下達が慌ててユースタスの後を追うのを横目に、おれ達は船長に意識を集中させる。


俯いて影が落ちた顔。どんな表情をしているのか分からない。ただ、泣いている訳ではないのは確かだった。


おれ達は考える。
こんなにもあからさまに直接避けられて、船長も気付いたのではないか。『恋人同士』は妄想でしかなかったのだと。
ユースタスとは何も無い。出会ったのすら久し振りだと、理解したのではないか。


もしそうならばどんなに良いだろうと、少しの期待を込めてみたけれど。


「……ふ、…っくく…」


笑い声を漏らした船長に、おれ達の体と思考は停止する。


船長は微笑んでいる。幸せそうに。
ユースタスと恋人になったのだと語る、その時と同じ笑みだった。


「…ユースタス屋の奴、あんなに照れなくてもいいのにな?」


船長の言葉に、笑顔に、おれ達はやはり何も言えなかった。


【診断結果:パラノイア




****
実際の症例は誇大妄想や被害妄想等で、この話の中の船長の症例とはまたちょっと違うのですが、他に当てはまる病名が分かりませんでした。まる。

(20120809)


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