※キドロ前提のキッド+キラー。ローさんは出てきません。






雨の音に混じって、無機質なインターホンが鳴り響く。活字の世界から意識を引き戻されたキラーは、一度大きく伸びをした。


見上げたデジタル時計は23時40分を表示している。


こんな時間に何の連絡も無く訪ねてくる相手など、キラーは一人しか知らない。


「…はい、」
「……よォ」


扉を開けると、そこに居たのは案の定びしょ濡れのキッドだった。
ワックスで固められていた筈の赤髪は頼り無く垂れ下がり、ぽたぽたと滴を溢す。


「…どうしたんだ、キッド」
「タオル貸してくれ」
「……」


キラーは眉をしかめて、キッドを見据える。
冷たい視線を向けられても尚全く悪びれる様子の無い男に、小さく息を吐いた。


「分かった、とりあえずドア閉めろ。タオル持って来るから動くなよ」


頭から爪先までずぶ濡れでは、部屋に上げられない。キラーがそう言うと、キッドはおう、と返事をして笑った。


キッドは本当に自由で唐突だ。子供の頃からこうだから、もう慣れてしまった。幼馴染みとして半生以上付き合っていれば、対処法だって熟知している。


タオルを取り出すついでに、キラーは風呂場の湯沸かしボタンを押した。こんな時間だ、泊まっていくつもりなのだろうし、雨で冷えた体を暖める必要がある。
風邪でも引かれたら、世話をするのはやっぱりキラーなのだ。




「ほら、軽くでいいから拭け。それが終わったら風呂だ」
「ん、サンキュ」


タオルを投げ渡すと、キッドは礼を言いながら受け取った。触り心地の良いそれに顔を埋めてから、がしがしと大雑把に髪を拭きだす。


それをぼんやりと見つめながら、キラーは口を開いた。


「で、傘はどうしたんだ」
「…トラファルガーに貸した」
「あー…」


傘が無いと嘆くトラファルガーに、男らしく自分の傘を差し出すキッドが脳裏に浮かんだ。折り畳みも持っているからとでも嘯いたのだろうな、とキラーは予想する。


いくら恋人とはいえ向こうも男なのだ。別にキッドが犠牲にならなくともと思ったが、口に出せば首を絞められそうなのでぐっと飲み込んだ。


「んで、駅からならお前ん家のが近いから寄った。つか今夜泊めてくれ」
「分かってる、それは構わん。…が、電話の一本でもくれれば迎えに行ってやったのに」
「今日ケータイ家に忘れたんだよ」


キラーは盛大に溜め息を吐いた。何だよ、とキッドが不満げに唇を尖らせるものだから、なんでもない、と呆れたように呟く。


大体乾いたのであろうキッドが部屋に上がり込もうとしたので、キラーは真っ直ぐ風呂に向かうよう背中を押した。


「扱い雑だなオイ」
「お前は客人ではないからな。ミルク温めとくからさっさと入れ」
「……あいよ」


ホットミルクひとつで大人しくなった親友に一人苦笑する。ガキの頃から全く味覚が変わらないのはこいつくらいだ。


廊下の奥へと向かうキッドの背中を見送ってから、キラーはキッチンに立つ。
何気無く視線を巡らせると、ちょうど0時を表示したデジタル時計が視界を掠めた。


雨音は、先程よりも増したようだった。




(20120623)


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