天気の良い日が続いている。
春のそれよりも幾分鋭さを増した太陽は、晴天故に雲に隠れる事も無い。
夏の日射しとまではいかないながらも、外で体育をすれば額から汗が滲むくらいだった。
「…暑いな」
「そうだな…」
ハードル走のタイム計測の列に並びながら呟くと、隣に並ぶキラーが同意した。
ちらりと視線を向けながら、少しばかりげんなりする。気温と日射しに十分やられているというのに、この男は更に暑苦しい。
おれはつい最近髪を切ったから、襟足は首に張り付かない程度だ。が、キラーは長く量のある金髪をそのまま下ろしている。
見ているこちらの方が暑くなるというものだ。
「キラー、髪邪魔だろ。結んだらどうだ」
「ん、ああ…そうだな」
おれの言葉に頷いたキラーが、近くにいた女子に声をかけた。ヘアゴムを借りるつもりなのだろう。
声をかけられた女子は快く笑って、腕に着けていたゴムをひとつキラーに手渡した。
…別にこのくらい普通の光景だ、面白くないなんて思っていない。断じて苛々などしていない。自分から結べと言ったんだ、何を後悔してるんだおれは。
誰に言うでもなく一人そんな風に考えてしまって、こっそりとヘコんだ。
「貰ってきた。たくさんあるからひとつくれるって、…ペンギン?」
「そ、そうか良かったな!…ホラ、さっさと結べ」
戻ってきたキラーに怪訝な顔をされてしまった。慌てて取り繕ったけれど、端から見れば挙動不審だったかもしれない。
おれの様子を見て不思議そうに首を傾げながら、キラーは黒いゴムで器用に金髪を束ね、高い位置で結い上げる。
「……女みたいだな」
「…うるさい」
素直に感想を言ったら、キラーが眉をしかめた。膨れっ面がおかしくて、おれはつい笑ってしまう。
「悪い、冗談だ。すっきりしていいんじゃないか?」
「…ん、首が涼しくなった」
「だろうな」
高い位置でさらりと揺れる金髪は、先程よりもかなり涼しげに見える。おれはそれに満足した。
「お前は髪切らないんだな。今でこそこんななんだ、夏とか地獄だろ」
「まあ、暑いな。でもペンギン、好きだろ?おれの髪」
「…え、」
「好きだろ」
断定されては反論など出来ない。確かにキラーの髪が好きなのは事実だった。
量の多さや触り心地、色、どれをとってもおれ好みなのだ。
撫でたり結んだり櫛を通したりと、キラーの髪を弄るのは最早日課のようになっている。
「おれもお前に髪を弄られるのは嫌いじゃないからな」
「…その為に伸ばしてるとでも言うのか」
「さて、どうだろうな? …順番来たぞ」
何故か得意気に笑ったキラーが、ぽんとおれの後ろ頭を軽く叩く。
触れられた箇所に手をやりながら、おれはふっと笑みを溢した。
クラウチングスタートの構えをしながら、おれは隣で揺れる金の束を横目に写す。
ピストルの音と共に、地を蹴り上げる。
少しだけ先を行くキラーのポニーテールを眺めながら、おれはそれを追い越そうとスピードを上げた。
太陽に反射する金髪を、眩しく愛しいと思いながら。
(20120516)