「せーんちょーっ!!」
「っぐえ、」


どしん、と背中に重たい衝撃が走る。大声を上げて突進してきたのは、クルーであるシャチだった。けほ、と咳き込みながらも、何事かと振り返る。
シャチはサングラスの下にニコニコと人の好い笑みを浮かべていた。ガキみたいな表情に、こちらも自然と頬が緩む。


「なんだ、どうした?」
「船長もたまには外で日向ぼっこしませんか」


折角浮上してんだし、とシャチが唇を尖らせるのに、おれはくすりと笑う。


「暑いだろ」
「暑いんじゃなくて暖かいんですって!ベポも寝ちまってますから、一緒に休みましょうよ」


シャチの指差す先には、甲板で気持ち良さそうに眠るベポの姿。ふわふわと白い毛が風に揺れている。可愛いなァ。


「…仕方無ぇな、」
「やったー!」
「ペンギンに文句言われても知らねェぞ」
「ちゃんと掃除は終わらせてありますよー」


早く早く、おれの手を引くシャチはどこか楽しそうだ。


仰向けに寝るベポの腹に背中を預けて、おれは甲板に座り込む。反対側では、シャチが同じ様にベポの毛に顔を埋めていた。


「…こりゃ眠くなるな」
「でしょー、不眠症の船長もゆっくり出来んじゃないかなって」
「……それが狙いか、」


ぽつりと呟くと、シャチが『あ』、と変な声を出した。


「隈の色薄くしろってか?」
「いや、あの…」
「いーよ。アリガトな」


目を閉じると、光に当てられた目蓋の裏が赤く色付いて網膜に焼き付く。それさえ眩しく感じて、帽子を脱いで顔の上に乗せ、直射日光を遮った。


「…せんちょ」
「…あ?」
「おやすみなさい」
「……ん、オヤスミ」


シャチの微笑んだ気配を最後に、おれは緩やかに意識を手放した。




「……あれ、」


洗濯物のたっぷり入ったカゴを抱えながら通り掛かった甲板。可愛い顔して眠るベポと、その腹に埋まるように眠るシャチ。
いつもの光景だが、少し違うのはそこに船長が混じって寝ていた事。


顔の上に乗せていたであろう帽子はずり落ちて、船長の珍しく穏やかな寝顔が覗いていた。濃い隈は相変わらずだけれど、このまま放っておけば少しは消えるだろうか。


三人の寝顔を眺めて、そっと微笑む。
「…おれも混ざろうかな」


ペンギンは小さく呟いて、カゴを甲板に置いた。



(20120420)


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