「お前なんか死んじまえばいいんだ」
「お前のせいでおれは迷惑してんだ」
「目の前から消えてくれ。不愉快だ」
「なァ、頼む」
「…おれの頭ん中から、消えろ」
鰐野郎の吐き出す言葉は、どれもこれもおれの存在を否定するものばかり。
何処と無く語尾が濡れている気がするのは、果して気のせいなのだろうか。
あァ、出会った頃とは随分変わったな鰐野郎。
こんなにアイされるなんて思わなかったぜ。
「おれが死んじまったら、お前哀しむだろう?フフッ」
「……死ね」
「嫌だね。おれァお前より先に死ぬ事はねェからな」
「……」
「お前が死んだ後も、生きて生きて生き抜いてからおれは死ぬんだ」
両手を広げて嘲笑すると、鰐野郎はギロリとおれを睨む。おー、イイ顔。
「愛しの鰐ちゃんを哀しませたくないからな。お前に先に死なせてやるってんだよ」
「馬鹿言うな、…今すぐ消えろ」
ギラリと輝くのは鰐の瞳と、左腕の凶器。
同じような金色で、同じような鋭さでもっておれを貫いた。
鉤爪が食い込むおれの首筋に、生温い液体が伝っていく。皮膚を抉る金色は、おれの赤に染まってしまっただろう。
凶器によって引き寄せられたおれの首。至近距離には獲物を捕らえた人喰い鰐の目。
「…キレーな色してんな」
「黙れ、頸動脈裂かれてェのか」
「フッフッフ、したいならすればいい」
「……ドフラミンゴ」
囁かれた名前。熔けそうな吐息。
『…愛してる』
瞬間、視界に弾けた眩しいほどの鮮やかなそれ。
最期に『アイ』を吐き出したのは、どちらだったか。
(20120420)