教室の一番後ろで窓際の席、というのは、学生にとって絶大の人気を誇るポジションだ。
三日前の席替えでそこを勝ち取ったのは、ペンギンだった。
日当たりも良いし、退屈な授業だとしても窓の外を眺めれば飽きることも無い。
昼休みの麗らかな陽気に、机に肘をつきながらうとうとする。弁当を食べて腹も膨れているし、午前の体育で疲れていたし、風はそよそよと頬を撫でる。絶好のお昼寝日和だ。
現に、隣の席のシャチは10分ほど前から机に突っ伏したまま動かない。
窓の外からは、大きな桜の木が見える。蕾が淡く色付いて、開花は間近というところだ。
この桜が咲いたら、授業中は常に窓の外に目がいきそうだな、とペンギンは重たい目蓋をどうにか持ち上げて考える。
ふわり、風が教室内に入り込んだ。
(…あ、春の匂い)
すん、と鼻を鳴らしたペンギンが、そう思うのと同時。
「今日は春の匂いがするな」
聞こえてきた声に、ぱちりと目を開く。
顔を上げて声の方を見ると、風に揺られる金髪と赤髪…キラーとキッドの二人を視界に捕らえた。声の主はキラーだ。
「あ?なんだそれ、匂うモンなのか?」
「なんとなく感じる。風が暖かくなったし」
「んー、わかんね」
ペンギンの前方で話す二人に、じっと視線を向ける。あの男がまさか自分と同じ感覚を持っていたなんて思わなくて、驚いた。
視線に気付いたのか、ふとキラーがペンギンを見た。慌ててペンギンが視線を逸らしたものだから、キラーがふっと笑って声をかける。
「ペンギン、お前もそう思わないか」
「…な、にが」
「春の匂い、するよな」
にこりと微笑まれては、胸がぎゅうと締め付けられる気がして、言葉が上手く喉を通らない。こくこくとただ頷くと、キラーは満足そうに笑みを深くした。
「…な?」
「…何お前ら、以心伝心か」
キラーの言葉に溜め息を吐いたキッドが、相手をしていられないとでも言うように頭を掻く。
嬉しそうな顔すんな、とキッドがキラーの背中を叩く頃。春の光を放つ窓の外に目をやりながら、ペンギンはそっと頬を桜色に染めていた。
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『ス.ト.ロ.ボ.エ.ッ.ジ』パロ。キラペンはもはや少女漫画だろうと。
(20120420)