きらきらと日に反射する金髪が、一瞬にして視界を埋める。押し倒された、と頭が理解した時には、既に男の得物がおれの喉に突き付けられていた。


油断していたつもりは無かった。自分の体調に問題があった訳でも無い。ならばこれは単純に力量の差ということだ。


「…流石は殺戮武人だな、おれでは太刀打ち出来ない」
「謙遜するな。お前の蹴りはかなり効いた」


そう言う男の仮面には、こめかみの部分にヒビが入っている。先程叩き込んだハイキックのせいなのだろう。男が少し動くと、パラリと破片が散ってきた。


「まともに喰らったからな、脳が少し揺れたぞ」
「普通の人間なら、いくら武装してても昏倒するんだがな…」
「…成程」


流石はペンギンだな、と男が笑う。実際仮面で顔は見えないから、笑った気配がしたとでもいうのか。


「…殺すならさっさと殺せ。おれは負けたんだ」
「……いいのか」


足掻かなくて。男…キラーは、小さく付け足した。


「…別に、おれは充分足掻いた。お前の刃を蹴り落とす努力をした」


結果が、これだ。押し倒されてご自慢の刃を喉に突き付けられている、この瞬間が答え。


「トラファルガーに勝手に死ぬなと言われているんだろう」
「これは勝手じゃないからな」


キラーと一戦交えてくると言ってある。手合わせと言えば優しく聞こえるが、おれ達の手合わせとはそれ則ち本番だ。
手合わせで命を落とすことだって有り得る。


「…赦したのか」
「好きにしろと言われたな」
「……トラファルガーは意地が悪い」


だから好かんのだ、と吐き捨てて、キラーはおれの上から退く。


「…なんだよ、殺らないのか」
「奴はおれがお前を殺さないと知って赦しを出したんだろう」
「お前、おれを殺せないの?」
「今は殺さない。ただし、もしもお前がキッドを殺しに来たら、その時はおれがお前を殺す」

それだけだ。キラーは淡々と述べて、ヒビの入った仮面を外す。
無駄に整った顔は汗ひとつかいていない。ムカツク。


「…ふーん」
「言わせたいのか?」
「何を」
「お前はおれの恋人だ。よっぽどの理由が無ければ殺したくなどない」
「…よっぽどの理由、はユースタスか」
「そうだな」

絶対で唯一だ、と。キラーは無表情で言った。


「ペンギンだっておれがトラファルガーを狙うと思えば、さっきとは比べ物にならないくらいの殺意を以て向かって来るだろう」
「…当然だ」
「そういうことだ。今日は良い機会だった」

久し振りに互いの強さを確認出来た。それに関してはおれも満足している。


「…ほら、立てるか」
「ん、すまん…」


ぐ、と腕を引かれる。それに従って立ち上がると、ほんの少し見上げる先には綺麗な蒼の双傍。


「……今度は負けないからな」
「おれとしては今度が来ない事を願いたいんだが」
「ふ、どーだか」


おれを攻撃している時のお前、すごく愉しそうだったけれど。言いかけた言葉はぐっと飲み込んだ。


敵で、恋人で、いつか別れなくてはならなくて、そんな日が来なければいいと願って。


まだ命をくれてやるには足りないなと、おれは静かに目を閉じた。



(20120404)


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