Ep.00 Prologue








―瑞希。今、帰り?



―ああ、悠眞。うん、そうなんだけどさ…

困ったよなぁ。
小雨ならダッシュで帰ろーとか思ってたのにさ。



―傘持ってないの?



―ねぇよ。降らないって予報だったじゃん。



―そう…。…俺の使う?



―え。でもお前は?



―いや、えっと、俺は…二つ持ってるから大丈夫だよ。



―まじ?さんきゅ!




…って、お前、帰らねぇの?



―えっと、まだ、ちょっと用事があるから…。
先に帰ってて。



―あぁそう?
んじゃお言葉に甘えて。



―うん。



―この傘、明日返すからな!



―どうせ忘れるだろうから、明日の帰りに瑞希の家行くよ。



―この野郎…馬鹿にしやがって…。



―してないよ。
大体、いつものことじゃん。



―うっせ!…んじゃな。



―うん。また明日。







その後、30分置いてから昇降口を出た。


瑞希は濡れずに帰れただろうかと、
自分の濡れた肩を見ながら思った。



(―この傘、明日返すからな!)



明日も瑞希に会える…

ちっぽけな約束が悠眞の胸の真ん中あたりをくすぐってくる。

きっと明日には、大して反省もしていないような顔で
「ごめん、忘れちゃったから取りに来て」
なんて言うのだろう。




(…よく降るなぁ…)





時雨は悠眞の肩をしとどに濡らしていた。





まるでその熱を冷ますように。









…瑞希がいなくなったのは、その晩のことだった。




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