放課後のキスはチョコ味 ※



某BLレビューサイトの企画に参加した時のもの。
途中までしかない小説の続きを書く、っていう企画です。
そして他のバレンタイン企画に夢中になってて書いたは良いけど企画元に送るの忘れたクズはここです。
忘れっぽくていかんな。


―――――――――――


バレンタイン当日。
今年も、ヤスタカのもとには大量のチョコレートが集まった。
放課後の教室で、ヤスタカは綺麗にラッピングされた包みを開いていた。
「やった、これ限定で出てたやつだ。食べたかったんだー」
「……食べるのかよ。告白にOKする気もないくせに」
不機嫌そうに応えたのは同じクラスのシュウジだ。
苦さを含んだシュウジの言葉に、ヤスタカは笑いながら言う。
「美味しいものは美味しくいただいたほうがいいでしょ。シュウジもいっぱいもらったんじゃないの?」
「好きじゃない人から受け取る気はない」
「ふーん……」
ヤスタカは包みを開いたチョコを眺めながら少し考えると、ハート型のチョコを摘む。
「じゃあさ、僕からチョコあげるって言ったら、シュウジは受け取る?」
言いながらハート型のチョコを唇にくわえ、シュウジの肩に手をかける。
「……っ」
「ね、どうするの? 受け取ってくれるの?」
チョコをくわえたまま、じっとシュウジを見つめるヤスタカの瞳に呑まれるように、シュウジはヤスタカの腰に手を回した。
そしてその真っ直ぐな瞳を見つめ返す。

斜陽の差し込む窓際付近。
日に照らされたヤスタカの頬が、心なしかほんのりと色づいて見える。
風で揺らいだカーテンが二人の姿を隠した刹那、シュウジは無言のままチョコの端に歯を立てた。
次いで、躊躇いがちにゆっくりとそれを噛み砕く。
絡んだままの視線は、ちょうど口内で溶け出したそれに似てねっとりと甘い。
「……シュウジ」
いつもとは違う、とろんとして熱っぽい眼差しに、物欲しそうな声。
その響きに、シュウジの深いところが酷くざわめいた。
胸元から這い上がる息苦しさに似た衝動に耐えかねて、ヤスタカの唇を啄む。
角度を変えて、何度も何度も。徐々に深く、濃厚に。
溺れそうなキスに夢中になっていると、肩にあったヤスタカの右手がするりと下へ滑り落ち、シュウジの左手首を捕らえた。
何事かとキスを解く。
するとヤスタカは掴んだ手で自分の制服の裾を捲らせ、不敵な笑みを浮かべた。
その意図がわからないほど鈍感ではない。
「駄目だ。そこまではしない」
「嫌なの?」
「そういうわけじゃなくて」
「でも、我慢できないよ」
シュウジだって同じじゃないの?
小首を傾げてそう呟きながら、反対側の手でシュウジの足の間をなぞってくる。
「……キスだけでこんなでしょ?」
反応しかけていたそこは、鼓膜を揺さぶる扇状的な言葉に一層張り詰めを増した。
指先でそれを感じ取ったヤスタカは満足げに口角を持ち上げ、またキスをねだる。
「声、出さないからさ……お願い」
そう言ってシュウジの手をベルトのバックルに触れさせた。

静まり返った教室内に、カチャカチャとベルトを外す音だけが微かに響く。
遠くの方で管弦楽部の演奏が聞こえていたけれど、それよりも心臓の音の方が耳についた。
緊張と欲情と、背徳感。
複雑に混ざり合うそれが頭の芯に痺れをもたらす。
「……ッ、は……」
二人分の屹立を握り込みゆっくりと擦り上げると、ヤスタカの薄い唇の狭間から熱い息が漏れた。
それに気を良くして徐々に手の動きが大胆になっていく。
伝わる熱と肩口から聞こえる吐息が快感を煽り、濡れた卑猥な音が耳殻へと届き始めれば、欲望がなけなしの理性をいとも簡単に凌駕した。
もっと近くに感じたい。
腰を、胸を、全身を、引き寄せ摺り合わせ滅茶苦茶に――
――途端、廊下から聞こえたのは、靴が床を擦る音。
二人はびくりと体を強ばらせ、手を止めて息を殺した。
そして見つめ合ったまま音の移動に耳を澄ませる。
物音を立ててはいけない。
わかってはいるけれど、酷く激しい脈を打つこの心臓がうるさくて、聞こえてしまわないかと不安になる。
そうしているうちに、規則的な足音が扉の閉まった誰もいないはずの教室の前を通り過ぎて行った。
先に安堵の息を漏らしたのはシュウジの方だった。
まだ早鐘を打っている胸を片手で押さえ、俯いて呼吸を整える。
「ねぇ、もう……行った、よね?」
「え……」
すっかり消え失せてしまった甘い雰囲気を取り戻すかのように、猫なで声でヤスタカが続きを促した。
そっと顔を覗き込んできて、唇が触れるだけのキスをする。
「早く」
――そんな誘い方は反則だ。
シュウジは頭の片隅でそんな不平を零しながらも、押さえつけていた衝動がどっと溢れ出るのを自覚した。
滴る体液を指に絡め、先端の窪みに親指を突き立てる。
「ぁあ……っ、あ、んー…っ」
ヤスタカは声を堪えようと、目を伏せ下唇をきゅっと噛みしめた。
けれどビクビクと跳ねる腰に合わせ、幾度も甲高い嬌声が上がる。
「声、出さないんじゃなかったのか?」
「そっ、そんな、したら……無理……っ」
「そんなって?」
主要な指三本にもっと強く力を入れて、重なり合うそれへの愛撫に一層の熱を込める。
先端の方を集中的に攻めると、堪えきれなくなったヤスタカが咄嗟に手で自分の口を塞いだ。
「手、どけて」
「やぁっ……!な、なんで」
「やっぱ声聞きたくなった」
言って、真っ赤に染まるヤスタカの手を引き剥がす。
露わになった半開きの唇は羞恥に波を打った後、溢れ出る嬌声を押し留めようと引き結ばれてしまう。
それをこじ開けるべくキスをした。
あやすように、食むように。触れ合った場所をほぐすように。
そしてこの熱で、溶けてしまえと言わんばかりに。
「んぁ……っ」
息を継ぐために開かれた一瞬を、シュウジは逃さなかった。
熱い舌を滑り込ませる。
不意打ちに驚いて逃げようとするそれを絡め取り、喘ぎ声すらをもねじ伏せた。
キスの合間にも、責め立ては緩めない。
痛みと快感とのギリギリのラインまで追い上げて、霞みそうな意識の中、ただ絶頂を促そうとそれだけに集中する。
「しゅ、しゅうっ、もう、や、あぁ……っ」
「……っ」
脳内で何かが弾け飛び、目の前がチカチカと明滅した。
朦朧としたまま手のひらにドロリと熱いものを感じる。
そこでやっと、お互いが達したことを知った。
整わない息のままかちりと視線が絡み、そしてそのままどちらともなく口付けた。
かすかに舌で感じるのは、甘いけれどほろ苦い、あのチョコの味――。

◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇

「……あのね、シュウジ。言い忘れたことがあるんだけど」
学校指定のカバンを肩にかけ、教室の出口でくるりと振り返ったヤスタカが言った。
対してシュウジはカバンに教科書を詰めながら答える。
「なに?」
「その、なんてゆーかさ、さっきのは義理チョコでも友チョコでもなくて、本命チョコだからね?」
おずおずと呟かれたその言葉を聞いて、シュウジは一瞬虚を突かれた表情を見せた後、くすぐったそうに笑った。
「……わかってるよ。ありがとう」





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