後編02



「悪いんだけれど、君の契約を今月いっぱいで切ることにした」

次の日の朝、出勤してすぐ店長に言われた言葉だった。
突然の衝撃について行かない頭のまま、樹季はゆっくりと目を瞬く。
「え?」
「いや、自主退社したいって言うならそっちでも構わないけど、どっちがいいかな。君が選ぶといい」
「ちょ、ちょっと待って下さい!理由を……」
「理由?そんなの君が一番わかっているんじゃないのか?」

――理由は、売り上げの横領。そう言われた。
もちろん全く心当たりがなかった為、自分はやっていないと何度も繰り返した。けれど無駄だった。目撃証言もあるから、警察に引き渡したくないし、君さえ引き下がってくれれば丸く収まるんだからと、最後にはそう諭されてしまった。

その時になって気がつく。自分はまた罪をなすりつけられている。
横領の証拠だと見せられたあの書類に書かれていた、取引先の名前。あれにはどうも見覚えがあった。必死で記憶を辿って、思い出されたのはそれとは別の何かの書類。尋常でない金額が印字されていたはずだ。何の書類なのかと内容に目を通そうとしたところで……
……ああそうだ。後ろから店長に声をかけられたのだった。

全ての元凶はあれなのか。けれど自分は別に告げ口などしない。後ろ暗いことは大嫌いだが、一時的に見て見ぬふりを出来ない程子供ではない。今そう言えば、契約を延長してもらえるだろうか。

いや、やめておこう。
そんな言葉で納得するならば、最初から首を切ろうとなんてしない。彼の頭には、樹季を上手く扱って関係を保とうという気など毛頭ないということだ。何を言ったところで今更遅い。

デジャヴ、などという言葉はこの場合甚だ軽すぎる気がした。

抗いたい。けれど抗わない。もがけばもがくほど自分の首が締まることがわかっているからだ。
所詮、自分など手駒に過ぎないというだけの話じゃないか。知っていたはずだろう、そんなこと。もうずっと前から。

実刑判決を下された被告人はこんな気持ちなのだろうか。
脳天から切れ味のいい刃物で真っ二つに裂かれたみたいに、痛みすら感じられなかった。




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