後編01




あの衝撃の告白から一ヶ月が経つ。
あまり言動には出さなかったけれど、これでも相当驚いた。けれど嫌悪感なんてものはさらさらなく、むしろ男だとわかって良かったと思う。これで思う存分友人として付き合えるからだ。
玻璃はというと、樹季の言葉に影響されてかあの日からもう着物を着なくなった。服は全て男物を着ることにしたらしい。一緒に買い物に付き合ったのだが、シンプルで体のラインの出やすそうな物ばかりを好んで買っていた。化粧もせず、腰まであった艶やかな黒髪もバッサリと切って、今では頬にかかる程度の長さだ。元々視力が悪かったらしくスマートなデザインの黒縁メガネを着用するようになり、ますます知的な好青年という言葉が似合いそうな外見になった。
それでいてあの完璧なまでの美貌は衰えないのだから、世の中不公平なものだ。女だと思っていた時は美人だなと思うだけで留まっていたけれど、同じ男だと考えるとそれはまさに美少年で、魅力が無いだなんてどの口が言うのかと問い詰めてやりたくなる。

外見が変われば気も外交的になるのか、大学の友人たちとも上手くやっているみたいだった。そもそもあの携帯の早打ちは数をこなして体得した技術なのだろうから、前から相手は居たということだ。まるっきり対人関係に疎い樹季とは違う。
結果的に良かったと思うべきなのだろうが、ただ一つ気がかりなことがある。玻璃の恋愛に関することだ。今までのやり方で出来なくなって不自由していないのだろうか。そう思ってこの前試しに聞いてみたら、玻璃は少しの間押し黙ってからこう言った。
「それは大丈夫です。今は、そんなことしなくてもいい相手を見つけたので」
そうは言うけれど本当に良かったのかと念を押すと、困ったようにはにかんで「というか、してもしなくてもきっと変わらないからいいんです」と付け足された。少し罪悪感が胸に残るが、本人がそう言うならば割り切るべきなのかもしれない。

玻璃の件は一段落したとして、自分の問題がなかなか山積みになっている。そちらを片付けなくてはならなかった。
というのもここ最近センスのいい玻璃の助言のおかげで着物のコーディネートが格段に上手くなり、売上が伸びて新店の方に異動してみないかという声がかかったのだ。
新店は今勤めているところよりもずっと大きい建物に入るようだし、噂によれば給料も多少なりとも上がるらしい。出世街道を見事に踏み外した男にとって、それは些細だが心機一転とも言える大イベントだった。気合いを入れて仕事に取り組まなければならない。
どこから聞きつけたのか、婚約者の真奈美からも電話が入っていた。本勤めになったら一緒にどこか食事にでも行きましょうとも言っていた。正直なところ祝い酒ならば玻璃と飲みたいところだが、仮にも相手は婚約者だ。式の予定がいくら先延ばしにされているからといってお互い何ヶ月も顔を合わせないのは非常識だろう。

季節はもう真冬に入ろうとしている。そろそろ春物を小出しに勧めてみてもいい頃だと玻璃は言っていた。それならばこの前入荷した桜の散りばめられたあの着物に、緋色の帯を合わせるのはどうだろうか。




前へ    次へ


ホームへ戻る
「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -