それからしばらく経って、誠凛では合唱コンクールの季節になった。 高校行事の一大イベント。 金銀銅賞、指揮者賞、伴奏者賞に配られる景品が高価なもんだから、皆が本気になる。 去年は入賞出来なくて、悔しい思いをしたっけ。 だから今年は入賞したいな…なんて、そんな事を思った。 「それでは今日は、伴奏者と指揮者について話し合います」 ホームルームの時間に、担任の先生が前に出てそう言った。 伴奏者と指揮者か…友達*名前がちらりと私の方を見たのが分かったけど、そのまま聞き流す。 「まずは指揮者だけど…誰か立候補はいる?」 途端にシン…と静かになる教室。 そう言えば委員長決める時も、立候補誰もいなくて大変だったっけ… 「それじゃあ推薦にするわね」 はじめからこうなる事が分かっていたのか、先生はあっさりとそう言った。 そして1人1人に、小さな紙を配り始める。 「そこに指揮者にふさわしいと思う人の名前を1人書いて下さい。男女どっちでも良いわよー」 3分後に集めるわよ、何て先生の話を聞きながら、誰にしようかと考えた。 友達*名前って書いちゃおうかな… でも友達*名前は声量あるから、優勝狙うなら残しといた方が良いかな? ……というか友達*名前の名前書いてもし通っちゃったら、一生恨まれそうだし。 となると…うーん… 考えていると、ふと前に座っている伊月くんが目に入った。 伊月くんは既に書き終えたようで、ペンをくるくる回して暇そうにしてる。 そう言えば伊月くんが皆の中心になって何かやるのって、見た事ないなー… 地味だとは言わない。実際イケメンでモテてるし。 でも目立った事とかはしないんだよなあ。 1年前のバスケ部の大宣言は別としてだけど。 伊月くんが指揮、なんて… ……あ、いいかも。 ちょっとだけ、イタズラ心が湧きあがって来た。 紙に、ペンを走らす。 ―…伊月 俊 「それじゃあ指揮者は、伊月くんに決まりね」 ……びっくりした。 まさかクラスの約半分が、伊月くんの名前を書いてたなんて。 冗談のつもりで書いたんだけど。 伊月くんが、ギギギ…と音がしそうなくらいぎこちなく後ろを向いてくる。 「名字、変わってくれたりしないか?」 「嫌だよ!でも伊月くん適任だと思うよ」 「指揮なんてしたら死期が近付きそうだ…」 「ダジャレ言ってる余裕あるんだから大丈夫」 「ちなみに名字は…誰の名前書いた?」 「え?伊月くんだよ」 「……」 それを聞いた伊月くんは、大きなため息をついた。 かくして指揮者は決まり、次は伴奏者。 この後予想外の展開が起こるなんて、私は夢にも思わなかった。 05 [戻る] |