「お昼はもう食べたの?」
「おー。食べ終わって、昼練中」
「ここで?」
「体育館は人が多くてさ。このゴール最近見つけたんだよ」

こんな隅のゴールを見つけた伊月くんは、ある意味天才だと思う。
そう言ったら、伊月くんは眉を下げて笑った。

ダン、ダンとドリブルをする伊月くんを見て、ふと気が付いた。
私…伊月くんがバスケしてるの見るの、多分初めてだ。
何もしてない時は文化系って感じするけど…こうやってボール持ってると結構似合うなあ…
そんな事を思いながら、同時に、頭の中に浮かんだ考え。

「ねえ伊月くん…レイアップシュート、出来る?」
「え?」
「あの、ふわってやつ!」
「そりゃあバスケ部だし、出来るけど…」
「やって!」

体育でバスケをする時。
元バスケ部や現役バスケ部の子のプレイで私が一番好きな技…
それが、レイアップシュートなんだよね。
すごくプロって感じするし、かっこいいし。

そう思ったら、急に伊月くんにやって欲しくなった。
突然の私の言葉に、伊月くんは少し驚いたような表情を見せる。


「い、今?」
「うん、すっごい見たい」
「オレより上手い奴いっぱいいるぜ?日向とか木吉とか」
「うーん…でも、私伊月くんのが見たい」
「…っ、そ、そうか」

伊月くんはゴホンと一つ咳払いをしてから…ボールを構えてくれた。

「じゃ、やるよ」
「うんっ」

ドリブルをしながら、伊月くんが走り出した…瞬間。


「あっ、俊!ここにいたんだ!」

突如辺りに響いた、凛とした声。
聞き慣れた、朝聞いたばかりの声。

「…ライバル*名前」
「もう、何やってんの!今日委員会でしょ!」
「あ、忘れてた…」
「ほら、皆待ってるんだから早く行くよ?」

それは紛れもなく、ライバル*名前ちゃんで。

伊月くんはボールを足元に置いて、ごめんごめん…なんてライバル*名前ちゃんに謝る。

何となく、もやもやした。

伊月くんとライバル*名前ちゃんは委員会が一緒。
だからか知らないけど、2人はよく話す。
ライバル*名前ちゃんがよく伊月くんに話しかけてるって言った方が正しいかな。

とにかくこのまま伊月くんとライバル*名前ちゃんが2人で委員会に行くのを見たくなくて…

「行こっか、友達*名前」
「名前?あ、うん」

友達*名前の手を引いて、その場を立ち去る。


割と伊月くんとは話す方だけど…話す時間は、朝の数分だけ。
ライバル*名前ちゃんが朝来るのは友達*名前と同じくらいで遅いから、朝は私が伊月くんと話してる。

ライバル*名前ちゃんみたいに私から伊月くんに話しかけるなんて、そんな勇気のいる事出来ない。
だから偶然伊月くんに会えて、さっきはすごく嬉しかった。


何となく、もやもやして。
何となく、悔しかった。

ライバル*名前ちゃんは自分から伊月くんを探して、好きな時に伊月くんと話せる事が。

ライバル*名前ちゃんが簡単に、この場所を見つけてしまった事が。











04


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