「あたし今日日直だ。日誌取ってこなきゃ」
「頑張ってね」
「ありがと。じゃ」

日誌を取りに職員室まで行ったライバル*名前ちゃんに会釈してから、私は教室に入る。
教室には友達と話している人、勉強してる人…様々。
私は真っ直ぐ自分の席に歩いて行って、持っていた鞄を机の横に掛ける。

「おはよう、名字」

私が椅子に座ると同時に、前の席の彼がくるりと後ろを向いて私に挨拶してくれた。

「おはよ」

それに対して、私も笑って挨拶を返す。

「何してんの」
「数B。今日オレ当たるから」
「あれっ、伊月くんが当たるって事は…私も当たる?」
「いや、横に進んでくらしいから大丈夫なはず」
「あー、良かったー」

私にいつも挨拶をくれる彼―…伊月俊。

伊月くんとは、クラス替えがあった高2の新学期に知り合った。
去年の朝礼でバスケ部が屋上から叫んでたから、当然名前くらいは知ってたけど…
クラスも遠かったし、話した事はおろか、すれ違った記憶すらない。

だけど同じクラスになって、席が近くになって。
話してみたら、すごく話しやすかった。

何度か席替えを繰り返したけど、今回また近くの席になれた。

私は始業時間のほんの少し前に登校するから、伊月くんは既に朝練を終えて教室にいる。
その伊月くんと授業が始まるまで話すのが、日課みたいになっていた。

ちなみに、私にだってちゃんと仲の良い友達はいる。
いるんだけど…その友達は私以上にギリギリの時間に登校してくる。
だから朝は話す時間が皆無なんだよね。


「そう言えば今朝、ようやく新しいネタ帳に入ったよ」
「ええっ、もう何冊目!?」
「んーと、ひゃく…」
「うわ、もうそれだけで十分です」

どうでも良いようなくだらない話して、笑って。

朝の、たった数分間。

だけど、そんな短い時間だけど…
私はこのひと時が、大好きだったりするんだよね。

伊月くんと話してると…すごくすごく、落ち着くの。








02


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