「名字!」

放課後。
帰ろうとすると、伊月くんに声をかけられた。
きょろきょろと辺りを見渡すけど、ライバル*名前ちゃんの姿は見当たらない。

「伊月くん…どうしたの?」
「いや、それはオレのセリフ」
「えっ?」
「名字、今日元気ないだろ?どうかしたか?」
「…」

伊月くん、気付いてたんだ…

「えーと、ピアノが下手だって言われちゃってさ」
「誰に?」
「ライバル*名前ちゃんに」
「ライバル*名前が?それまた何で…」

伊月くんと話してるせいで…なんて言えない。
分かんない、と出来るだけ笑顔を作って返した。

「じゃあオレが、元気が出る方法教えるよ」
「え、そんなのあるの?」
「ああ。たい焼きに体当たりすればいい」
「……ふっ、」

いつもの伊月くんのダジャレ。
だけどたい焼きに体当たりする姿を思い浮かべて、自然に笑みを浮かべる自分がいた。

あ、ほんとだ。

「ありがと。元気出た」
「…まあ、人間誰でも不調はあるからな。深く考えない方がいいよ」
「伊月くんも…不調な時ってあるの?」
「当たり前。この前もオレの出したパスが全部カットされて、かなり落ち込んだし」

少し…ううん、かなり以外。
男子バスケ部は強いって噂しか聞かないから。
伊月くんにもそんな事があったなんて、思いもしなかった。

「でも何とかなるって思ったら、何とかなった」
「そっか…」
「だから名字も、何とかなるって思ってれば大丈夫だ」
「ん…そだね」

不思議だ。
伊月くんと話してると、不満が薄れて行く。
伊月くんの言葉ひとつひとつが、胸の中のもやもやを溶かしてくれるみたい。


だけど…そんな私の気持ちは、次に聞こえて来た声によってかき消される。

「俊ー!」

ライバル*名前ちゃんだった。





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