あれからしばらく経って、左手のつき指もすっかりよくなった。 そして合唱コンクール以来…私と伊月くんはよく話すようになった。 前までは朝の少しだったけど…今は授業間の休み時間とか、放課後とか。 だから、毎日がすごく楽しかった。 だけどライバル*名前ちゃんが伊月くんと話すのも当然の事。 ライバル*名前ちゃんが私を良く思ってないのも…当然の事。 「名前ちゃん」 ライバル*名前ちゃんが話しかけてきたのは、昼休みの事だった。 お弁当を食べ終えて友達*名前と話し込んでいた私は、少し驚いてライバル*名前ちゃんを見る。 「ライバル*名前ちゃん…どうしたの?」 「名前ちゃんて…次のコンクールには出ないのよね?」 「うん、出ないよ」 「でも、その次のコンクールには出るでしょ?」 「うん。出る予定…だけど」 「今の調子じゃ、入賞すら無理よ」 「えっ…?」 ライバル*名前ちゃんの言葉に、更に驚く。 「どういう事…?」 「ピアノ教室でこの前聴いた名前ちゃんの演奏、下手だった」 「……!」 「伊月くんとしゃべってばっかりで、ピアノに身が入ってないんじゃないの?」 「そんな事は…」 「あのさあ、突然話しかけて来たと思えば何なの?」 私の言葉に被せるようにして強く言ったのは、友達*名前。 友達*名前はライバル*名前ちゃんの方を睨む。 「伊月くんと名前に妬いてるんでしょ?ハッキリ言えばいいじゃん」 「あたしはただアドバイスしてるだけじゃない」 「私にはそうとしか聞こえないけど」 友達*名前の言葉に、ライバル*名前ちゃんも友達*名前の方を睨んだ。 「っ…あたしは名前ちゃんと話してるの。関係ないのに首突っ込んで来ないでよ」 「ピアノだって名前の方が上手いと思うけど。オーディションで負けたじゃん、あんた」 「ちょっ、友達*名前!」 友達*名前がこのままヒートアップしそうで、慌てて止める。 そうすればライバル*名前ちゃんは、今度は私の方を睨んで… 「とにかく。もっとピアノに打ち込みなさいよ」 それだけ言って、自分の席に戻って行った。 「……」 「名前、気にする事ないよ。妬いてるだけだって」 「妬いてるって、私そんな…」 「私は伊月くんと名前を応援するからね」 「だから、そんなんじゃないってば」 友達*名前に笑いかけながらも、さっきのライバル*名前ちゃんの言葉が頭に貼り付いて離れない。 ―…名前ちゃんの演奏、下手だった ―…伊月くんとしゃべってばっかりで、ピアノに身が入ってないんじゃないの? 誰にぶつけて良いかも分からない不満が、胸中に溜まっていく。 17 [戻る] |