「俊、絶対優勝しようね!」 合唱コンクールの日もだんだんと近付いてきた。 今日も少し早めに登校すると、朝練を終えた俊に出くわして。 あたしは走り寄って声をかける。 オーディションに落ちた時は世界が終わったみたいに絶望的だったけど… 結局あたしが伴奏者になれて、すごく嬉しい。 だけどそんなあたしとは対照的に、俊は「ああ…」なんて生返事をしただけだった。 「俊、どうしたの?」 「……ライバル*名前」 「何?」 「名字…何があったの?」 「え?」 突然名前ちゃんの名前が出てきて、驚いた。 「名前ちゃん?」 「ああ。名字、結局曲決めに来なかった」 「……」 そうよ。だから私が代わりに選ばれたんだから。 「曲決めに行く前、名字はどっかに走ってったんだよ」 それは、多分―…というか絶対… 「名字は曲決めサボるような奴じゃない。伴奏者に決まった時も嬉しそうにしてた」 「そう…」 「何で来なかったのか名字に何回聞いても、知らないって言うんだよな」 「……」 「ライバル*名前、何か知らないのか?」 ……私を、助けるため。 そして名前ちゃんが何も言わないのは、私が“誰にも言わないで”って言ったから。 ドクン、ドクンとせわしなく心臓が動く。 「なあ、ライバル*名前……」 「…あたしが、名前ちゃんに何かしたって言いたいの?」 「いや、そんなんじゃないよ。ただ、名字が来れなかった理由くらいは知ってるんじゃないかって…」 「知らない…知らないよ、あたし。何も」 「……そうか」 伊月くんの指揮を見ながら、伴奏が出来る。 望んだ通りの結果になった。 それなのに、嬉しさがしぼんで行くのは… 名前ちゃんの笑顔が、脳裏に浮かんだから。 俊の顔が、何だか寂しそうだったから。 真相を全て知ってるのは、あたしだけなのに。 ……ばかだな、あたし。 14 [戻る] |