左手を見れば、紫色に腫れ上がっている。
だから教室には戻らずに、保健室へ直行。

「酷いつき指ね」

保健の先生は手当てをしながら、そう言った。




「名字さん」

そしてその日の放課後、担任の先生が私を手招きした。

「何ですか?」
「ピアノ伴奏の事だけど…」
「はい」
「名字さん今日の曲決めに来なかったし、それ…つき指しちゃったんでしょ?」
「あ、はい…」
「だから名字さんには悪いけど…伴奏は他の人に変わってもらうね」
「えっ……!」

つき指だと言われた時、薄々頭の中をかすめはした予感。
だけど、それが見事的中するなんて…

「でも私、大丈夫です!弾けます!」
「うーん…でも、もう決まっちゃった事なの」
「そんな…」
「何か理由があるなら別だけど…曲決め、どうして来れなかったの?」
「……」

思い出されるのは、“誰にも言わないで”というライバル*名前ちゃんの言葉。
黙る私を見て、先生は残念そうに首を振る。

「来年もまだあるんだから。ね?」
「……」
「オーディションで2位になった子が伴奏をする事になったわ」

また、嫌な予感がした。

「それ、誰ですか…?」









「俊、一緒に頑張ろう!」
「伴奏者、ライバル*名前になったのか?」
「うん、名前ちゃんが怪我で交代になったの!だから、頑張ろ!」
「あ、ああ」

もうひとつの予感も、見事的中。
私の代わりに伴奏者を務めるのは―…ライバル*名前ちゃん。

笑顔のライバル*名前ちゃんを見て…目頭が熱くなった。

すごくすごく、悔しかった。


元々知ってた。
私がライバル*名前ちゃんに、敵わない事くらい。

伊月くんはライバル*名前ちゃんを名前で呼ぶけど、私の事は名字呼び。

結局伴奏者だって、ライバル*名前ちゃんが選ばれた。


だけど…私だって、あんなに頑張ったのに…

何で私は報われないんだろ。
どうしてライバル*名前ちゃんばっかりが良い思いをするの?

そんなの、納得出来ないよ……







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