「じゃあ行くか、名字」 「うん」 「名前っ!」 昼休み。 伊月くんと私は、2人で音楽室に行こうと席を立つ。 お手洗いに行ったはずの友達*名前が血相を変えて教室に飛び込んで来たのは、そんな時だった。 私と伊月くんは、驚いて動きを止める。 「友達*名前、どうしたの?」 「あのねっ、あー…」 友達*名前は伊月くんをちらっと見ると、「ちょっと良い?」と言って。 伊月くんが頷いたのを確認してから、私を伊月くんから少し離れた所まで引っ張る。 「ちょ、どうしたの友達*名前」 「あのさ、名前には関係ない事かもだけど…」 「ん?」 「ライバル*名前が今、3年女子の不良グループに屋上に連れてかれて…」 「えっ!?何で?」 驚いた。 「何かさっき不良たちがいじめしてるのをライバル*名前が止めたんだって」 「そうなの!?」 「うん。それで恥かかされたって不良たちが怒って…」 そういえばライバル*名前ちゃんは、昔から正義感は強い方だった。 ピアノ教室で私がからかわれた時も、助けてくれたし。 「ってごめん。一応伝えとこうかな?って思っただけだから。曲決めいってらっしゃい」 「……」 「…名前?」 頭に、ライバル*名前ちゃんの顔が思い浮かぶ。 そう言えばもうすぐ、ピアノのコンクールがある。 今回私は出るのをやめたけど、ライバル*名前ちゃんは出場するはず。 3年女子の不良グループなんて、良い噂は聞かない。 怪我でもしたら…コンクールに、出れなくなる… 決断は、一瞬だった。 「ごめん、伊月くん!」 「名字!?」 「後から必ず行くから!」 私は伊月くんにそう言って、走り出していた。 向かう先は―…屋上。 私はこれから大切な曲決めがある。 だから、聞き流す事も出来なくはなかった。 だけど…これはせめてもの、償い。 これで私の気持ちが晴れるなんて事は、ないと思うけど。 私はライバル*名前ちゃんの伊月くんへの気持ちを知っていても、何も出来ないから。 (待ってて、ライバル*名前ちゃん…) 11 [戻る] |