―…明日の昼休みは曲決めがあるから、指揮者と伴奏者は音楽室に来てね。

昨日、先生にそう言われた。
つまりは今日の昼休みに曲決めをするみたい。
その曲決めに参加する伴奏者が私なんて…自覚はしたけど、まだ信じられない。

昨日はそんな事を考えていたらなかなか眠れなくて…そのくせ今日は早起きしてしまった。
だから、いつもより一本早い電車で学校へ行く。


校門に足を踏み入れようとした瞬間…

「おはよっ」

ポンッ

背後から声をかけられ、同時に肩にくる軽い衝撃。
振り向けばそこには…

「伊月くん!」

部活の練習着姿でおはよ、と手を上げる伊月くんがいた。

「今日は早いな名字」
「うん、何か目が覚めちゃって。伊月くんは朝練だよね?」
「そ。今外周終わったとこ」
「そっかあ。お疲れ「俊!」

その時私の声に被せるようにして、明るい声が響いた。
この声、そしてこの呼び方は…間違いない。

「ライバル*名前か。おはよう」

……やっぱり。

「おはよう。朝練お疲れ様」
「サンキュー」


ズキン、ズキン

胸が痛い。
昨日はっきりと気付いてしまった、ライバル*名前ちゃんの気持ち。
だから今だってライバル*名前ちゃんは、伊月くんと話せて幸せなんだろうな。

分かってるなら、邪魔しないように去らなくちゃ。
そう思うのに、足が動かない。


「ライバル*名前も今日は早いんじゃないか?」
「え、あたし“も”って?」
「いや、名字も今日いつもより早いからさ」
「…ああ」

ちら、とライバル*名前ちゃんが私の方を見る。

あ、れ…?

おかしいと思った。
何かいつもよりも、元気がないような…

そう思ったらライバル*名前ちゃんが私に向かって…笑顔を作った。


「名前ちゃん、伴奏おめでとう」
「あ、うん…ありがとう」
「……俊!今日の昼休み委員会の集まりあったわよね?一緒に行かない?」
「あー…悪い。今日の昼休み曲決めあるんだ。指揮者と伴奏者で」
「そう…」

ライバル*名前ちゃんは私と伊月くんを見てから

「2人共…指揮と伴奏、頑張ってね」

そう言って、校舎に向かって歩いて行った。



「それじゃ、オレ着替えてから教室行くから」
「あ、うん。また後でね」
「ああ。それじゃ」

そう言って伊月くんも走って行く。
そんな伊月くんの後ろ姿を見送りながらも…



相変わらず胸は痛いまま。


これは…罪悪感、なのかな。

ライバル*名前ちゃんの気持ちを知っていながらも、何もしない自分への罪悪感。
本当はどうするべきかなんて分かってる。
分かってる、けど…

どうしても、出来ない。

だって私は―……










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