03





『黄瀬!』

あの頃も私は、今と変わらずアイツの事を黄瀬って呼んでた。そして…

『○○っちー!』
『どーしたの?』
『せっかく作った砂のお城壊されたっ…』
『はぁ!?誰に?』
『知らない…』

昔、黄瀬は泣き虫だった。
友達と喧嘩しては泣いて、ちょっと転んだりすれば泣いて。
そういう時は、決まって泣きながら私の家に来た。
だけど私と遊び始めると、途端に笑顔になる。

あの黄瀬の笑顔を見てると、私まで嬉しくなった。


家は徒歩で2分なんて近所同士だから、
黄瀬は毎日のように私の家に遊びに来ていた。
夕食も、よく一緒に食べたっけ。

そう言えばあの頃は、お父さんもお母さんも笑ってる印象しかないな。


あれから中学校に上がって、高校生になって。
黄瀬はモデル業やバスケを初めて、男女共に人気を集める雲の上の人みたいになった。
当然年齢が上がるにつれて、会話の回数も減っていった。

学校も別々になった今なんて、交流は無に等しい。



だけど落ち込んだ時に浮かんでくるのは…やっぱり黄瀬の笑顔で。

辛い時に、話したくなる。会いたくなる。
あの泣き虫だった頃の黄瀬も、こんな気持ちでいたのかな。


少しだけ胸がぎゅっとして、目頭が熱くなった。
だけどそれをこらえて、固く目を閉じる。


微かに聞こえてくる両親の言い争いの声から逃れるように横を向いて、
私は深い眠りに落ちた。











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