君へ走る
ある日の放課後―…
教室掃除の当番である私は仲の良い友達と喋りながら…
それでもわりと真面目にホウキを持つ手を動かしていた。
「それでさー、この前のスポーツ大会のバスケ決勝でめっちゃシュート決めてた人いたじゃん?」
「あー…あの髪ちょっと長めの人?」
「そうそう!その人カッコ良くない!?」
「んー…」
「あれ?名前の好みじゃない感じ?」
「いや、カッコ良いとは思うけどー…「○○っち!」
教室にひときわ通る少し高めの声が響いたのは、その時だった。
私たちを含め教室掃除をしていた人たちは、一斉に声のしたドアの方を見る。
と…
「へっ、涼太!?」
どこからどう見ても黄瀬涼太である人物が、ドアの前に立っていた。
嘘…もしかして夢?
第一、涼太学校違うじゃん。それなのにどうしてここに…
そんな事を考えているうちに、涼太は私の方に走り寄って来たかと思うと…
「会いたかったっス!」
気付けば私は涼太の腕の中。
わーとかきゃーとか言う驚きの声が後ろから聞こえた。
ぎゅーっと苦しいくらいに涼太は自分の腕に力を込めて…同時に真っ白になる私の頭。
「わあーっ…タンマタンマタンマ!」
慌てて涼太の両肩を持ってぐい、と引き剥がす。
「ちょっ…何で!?」
「今日オレの学校創立記念日で部活休みだったんスよ!で、何か○○っちに会いたくなって」
「いやいやいやだからって…」
ふい、と視線を涼太から逸らせば…
にやりと不敵な笑みを浮かべる友達と目が合った。
「なるほどそういう事かー」
「違っ、聞いて!」
「名前!掃除は私らに任せて早く帰りなよ?」
「えっ?それは…」
「ホイ、」
すると違う子に私のカバンを手渡され…
また別の子が、私のホウキを奪い去って行く。
「その代わり、後でちゃんと話聞かせてよね」
そんな捨てゼリフを残して、友達は私と涼太を教室の外へと追いやった。