02





「おやすみ」


夜。

小さくそう言っても、いがみ合う2人の耳に、その声が届く事はなくて。
私は静かにリビングの扉を閉じて、自分の部屋に向かった。


電気を消して、布団に潜る。
喧嘩の度にキリキリと痛み出す胃にも、もう慣れた。
だけど…何でこうなっちゃったのかな…

軽く胃を抑えながら横を向けば、携帯が目に入った。


―…黄瀬に会いたい。


ふと、そう思った。


携帯を手に取ってアドレス帳を開けば、暗闇での突然の光に目が眩む。

『黄瀬涼太』

その名前は、簡単に見つけ出す事が出来た。
メール…しよっかな。
だけどふと時計を見れば、今は夜の11時。
遅くまで部活がある黄瀬は、もう寝てるかもしれない。
朝練だってあるかもしれないし。
仮に起きていたとしても、疲れてるのは間違いない。
というか…もう何か月もメールなんてしてないし。

数秒迷ってから、電源ボタンを押して、画面を待ち受けに戻した。




高校生にもなって、“親友”なんて呼び合う友達だってたくさんいるのに、
やっぱりこういう時に頼るのは、黄瀬なんだな、私。
そう思ったら、何だか笑えてきた。
今の心境で明るく笑えるはずもないから、情けない笑顔だったろうけど。

どんな友達よりも近くに居たのが、黄瀬だったからね。
当然と言えば、当然。


目を閉じて、もう遠い昔のように思える記憶を掘り起こす。











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