04





「黄瀬、オフの日カラオケにでも行かないか?」

森山先輩にそう誘われたのは、つい昨日の事だった。

「いつもの4人で行こうと思ったんだが…」

そう言いかけて、森山先輩は意味ありげにオレを見る。

先輩の言いたい事は…分かってる。
理由は1週間前、オレに彼女が出来たから。

そして森山先輩の言う“いつもの4人”とは、
森山先輩と笠松先輩とオレと、バスケ部マネージャーの○○っちの事。
それで大丈夫かという質問が、その言葉には込められていた。

「了解。それじゃあ後で○○っち誘っとくっス!」

その言葉の意味を理解しながらも、オレはそう答えたけど。






「○○っちー!今週の土曜日暇っスか?」

そして休み時間。
後ろの席の○○っちにそう持ちかければ、○○っちは驚いたように目を丸くした。

「土曜日?暇、だけど…」
「皆でカラオケ行こ!」
「カラオケ?」
「そ。その日久々のオフになったんス!」
「私はやめとくよ」

だけど○○っちから返ってきたのは…期待と180度かけ離れた答え。

「ええええ何でっスか!」
「だって…やっぱ悪いし」


そう言ってオレから目を背ける○○っち。
途端に、胸の奥が鈍く痛んだ。


あの日から…―オレが付き合い出してから―…

○○っちはオレに、本音を言わなくなった。


ほんの少し前までは、仲良かった。
言いたい事は何でも言い合って、いっぱい笑い合って。
○○っちはいつも、自分の本当の気持ちをオレにぶつけてくれた。


そんな○○っちの事を、オレは―……



だけどある日、○○っちはオレに言った。


「黄瀬…好きな子いる?」
「えっ、好きな子っスか?」
「あのね、私の友達が黄瀬の事好きなんだって。考えて…くれないかな?」


その時、全てを悟ってしまった。

○○っちにとってオレは…単なる友達。

想いが強かっただけに、その想いが届かないと知った時の絶望はでかくて。
もう、何でも良くなった。

そしたら、流れで○○っちの友達と付き合う事になって。

それからだ。○○っちが自分より、オレの彼女を優先するようになったのは。


もう、引き返せない。
オレの望んでいた未来は、手に入れる事が出来ない。

そう分かってるハズなのに…

「まあ、○○っちが彼氏との用事があるとか言うんなら?無理強いはしないっスけどー」
「彼氏なんて…いる訳ないじゃん」
「ならいいじゃないスか!」

わざとそんな台詞を吐いて、彼氏がいないと言った○○っちの言葉にホッとする自分がいる。

「あ、もしかして気遣ってるんスか?なら心配ご無用っス!」
「え?」
「カラオケのメンバー、オレと笠松先輩と森山先輩だし」
「そうなの?じゃ…行こっ、かな」
「やった!」

そして○○っちの言葉に、いちいち一喜一憂する自分がいる。



「涼太!遊びに来ちゃった!」

そう言いながらオレの隣に来る、オレの“彼女”。

「最近いっつも来てくれるのは嬉しいけど…女友達は大丈夫なんスか?」
「いーの!私は涼太に会いたいんだから」
「オレも会いたかったっス」
「もー!涼太、大好きっ!」

愛もない相手に、うわべだけで愛のこもった言葉を紡ぐ。


オレが本当にこの言葉を伝えたい相手は…すぐ傍に居るのに。

傍に居るのに…届かない。



ねえ…あの時オレが、諦めてなかったら

変わってたんスかね?


あの時オレが素直になって

自分の気持ちを伝えられていたら…



君は今も、オレに気持ちをぶつけてくれたんスか?



今更言っても意味なんてない。

だけど、ずっとずっと



オレは君が、好きだったんスよ。





この想いは、偽りの愛によって薄れて行く―…








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