02





「○○っちー!今週の土曜日暇っスか?」

授業が終わって、10分間の休み時間。
突然くるりとこっちを向いた切れ長の瞳に捉えられて、心臓がドクンと脈打つ。

「土曜日?暇、だけど…」
「皆でカラオケ行こ!」
「カラオケ?」
「そ。その日久々のオフになったんス!」

そう言って無邪気に笑う、目の前の―…黄瀬涼太。

昔と、少しも変わらない笑顔で。


―…行く!

いつものノリでそう言おうとした口を、慌てて紡ぐ。
同時に胸に広がる、悲しいような、切ないような気持ち。


「私はやめとくよ」
「ええええ何でっスか!」


…バカ。

そんないかにも残念そうな口調で言わないでよ。



行く、って

そう言えたら、どんなに楽だろうか。


だけど私は…それが出来ない。



つい1週間前までは出来てた。

黄瀬とはクラスの男子の中で一番仲が良くて…
黄瀬の部活がない日は、よくバスケ部の皆で連れ立ってカラオケやボーリングに行ってた。
ごく、当たり前みたいに。

甘えたり、喧嘩したり、我儘になってみたり。
黄瀬の前なら、それが出来た。


だけどそれは、もう叶わなくて。

黄瀬は、私の手の届かない遠くに行ってしまった。



だって、黄瀬の隣には―…


「だって…やっぱ悪いし」
「何がっスか!」


…あの子が、いるから。


皮肉な事に、黄瀬の隣に立っているのは…私の一番の友達。

いつも優しくて、明るくて、私を助けてくれて…大好きだった。
だけどその友達が、ある日弱々しく言ったんだ。

―…私、黄瀬が好き。


黄瀬と仲の良い、私を頼って発せられた言葉。

その言葉に、私の本当の気持ちは全て押し込められて。
応援するね、なんて…バカみたいな事言って。

そして、黄瀬は遠くへ行ってしまった。

ううん、違う…私が遠くへ追いやってしまったんだ。


「まあ、○○っちが彼氏との用事があるとか言うんなら?無理強いはしないっスけどー」
「彼氏なんて…いる訳ないじゃん」
「ならいいじゃないスか!」

だって、黄瀬の言う“皆”は、あの子の事を指してるんでしょ…?

そんな事を考えていたら、まるで私の心を読んだかのように

「あ、もしかして気遣ってるんスか?なら心配ご無用っス!」
「え?」
「カラオケのメンバー、オレと笠松先輩と森山先輩だし」

…なんて。


「そうなの?じゃ…行こっ、かな」
「やった!」

君のその笑顔は…昔から眩しかったね。
素直で明るくて、太陽みたいな君が…ずっと私に見せていてくれた笑顔。

だけどその笑顔は…

「涼太!遊びに来ちゃった!」

もう、私だけのものじゃない。


教室に入って真っ直ぐと黄瀬の隣に来る、私の友達。
その友達に向かって笑顔を見せる―…黄瀬。

その笑顔を一人占めしたかった、なんて

我儘も良いとこだよね。


黄瀬と自分の友達をくっつけたのは…私自身、なのに。
もう私よりも、友達の方が黄瀬との距離は近いのに。


「最近いっつも来てくれるのは嬉しいけど…女友達は大丈夫なんスか?」
「いーの!私は涼太に会いたいんだから」
「オレも会いたかったっス」
「もー!涼太、大好きっ!」

ほら、私が言えない言葉を…黄瀬に向かって簡単に呟ける。



ねぇ、黄瀬を好きになったのが私の友達じゃなかったら


もしも、私が自分に正直になれたのなら



今でも君は、私の隣で


私にだけ、笑っていてくれましたか…?



私は、黄瀬がモデルやバスケで有名になる前から

友達が黄瀬を好きになる前から



ずっと、ずっと




黄瀬が、好きだったんだよ。





この想いは、紡がれる事なく消えて行く―…







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