03





そうして現在に至る。

氷室くんから改めて聞かされるまですっかり忘れてたけど…彼は帰国子女だった。
つまり、日本の英語なんてものはお手のもの。

それからあれよあれよという間に事は進み、今私の部屋でプチ勉強会が開かれている訳だ。


だけど…当の私は既に力を使い果たしていた。
氷室くんの説明はすごく分かりやすい。
分かりやすいけど…私の中の全てが英語を全否定しているのだ。

英文を見れば見る程、言葉では表せないような感情がぶわあっと湧き上がって来る。

もう英文を見るのさえ拒否反応が出ていた。



「名前…もう少し頑張ろう」
「でも、もう解けないよー…」
「試合や合宿に行けなくなっちゃうよ」
「それは行きたい、けど…」


うーん…と唸りながら私の目の前に広げてあったワークを手にとってページをめくる氷室くん。

いいからつべこべ言わずに解け、なんて強要しない所に氷室くんの優しさを感じる。

氷室くんはいつだって優しい。
紫原くんが何回ジャンプボールでやらかしても怒らないし
私がマネージャーの仕事を失敗してもいつもフォローしてくれる。

今だってせっかく教えに来てくれた氷室くんに迷惑かけてることは分かってる。
でも…氷室くんの優しさに甘えて、こういう態度を取っちゃうんだ。



「名前、今日のノルマはどこまでなの?」
「…とりあえず95ページまで」
「あと6ページか」
「うん…」

「…よし、じゃあこうしよう」

私の前にワークを戻して…氷室くんがふわりと笑う。

「あと3ページ進めたら、息抜きにどっか出かけよう」
「えっ…!?」
「確かに根詰め過ぎても良くないからな。美味しい物でも食べに行こっか」
「行く!」
「よし、じゃあ頑張って」
「うん!」


氷室くんの言葉で、暗号と化していた英文がまた意味を成してきて…
現金だなあ…自分、なんて。

ほら。また私は氷室くんの優しさに甘えてしまう。


少し問題につまづいて氷室くんの顔を見れば、また氷室くんはふんわりと笑う。

この笑顔…好きだな。


「氷室くん」
「ん?」
「教えてくれて、ありがとね」
「オレが嫌なだけだから。名前と試合や合宿に行けないの」
「…」

嬉しい事言ってくれるなあ。


「名前は何食べたい?」
「んー…何でも良いよ!氷室くんが決めて」
「オレは名前が行きたいところがいいな」
「もう…」


そよそよと吹き渡る風。
日の光が差し込む部屋。
そして―…氷室くんが隣に居る。

この空間が…大好きだ。


「名前はどこに行きたいの?」
「それじゃあね…」



私が幸せに包まれるまで―…あと、1問。






(NEXT⇒あとがき)






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