01


NAMIDAplace




「ただいま」
「おかえり。…名前、」
「ん?」
「もうお母さん、嫌になっちゃった」
「…」


……まただ。


これからお母さんの口をついて出てくる言葉を考えながら、
自然に気分が重たくなって行く。
お母さんが次に何を言うのか…その答えは容易に出る。
だって、お母さんはもう何度も私に「嫌になった」と言葉をぶつけたから。


だけど私は分からないといった様子を装って、あえて少し明るく口を開く。


「どーしたの?」

「せっかく重い買い物してきたのに、お父さん感謝の一言もないんだもん。
 それどころか、洗濯物の干し方が悪いってさ」

「そっか…」



やっぱり。


お母さんが「嫌になった」と言う時は、決まってお父さんの悪口。

いつからだろうか。
私の両親は、よく喧嘩をするようになった。
朝も、夕食の時も…寝る前も。

喧嘩が増えるにつれて、こうして母が私に父の愚痴をこぼす事も多くなって。



「楽になりたいなあ…」
「…頑張ってね」


今日も私は、そう返すのが精いっぱいだった。