05
「血は止まったか?」
「うん、なんとかね」
「なら手当てをする。こっちに来い」
「はーい」
今私と緑間は保健室にいる。
息せき切って保健室に飛び込んだはいいが、運悪く保健の先生は出張。
仕方なく緑間に傷の手当てをしてもらう事にした。
さすがに左手の痛みを抱えながら右手一本で手当てするのは難しいしね。
水で洗ってタオルで押さえてたら血はなんとか止まったから、緑間の前の椅子に座る。
「かなり深く切ったな」
「らしいね」
「はあ…だから彫刻刀を使うなと忠告したのに…」
「いやいや、そもそも緑間のせいでしょこうなったのは」
自分で彫刻刀の軌道変えといて何言ってるんだこの男は。
それにしても…
「何で緑間、彫刻刀使うななんて言ったの?」
今朝からずっと疑問に思っていた事を聞いてみた。
「あんなに阻止するなんて理由でもあった訳?」
「……」
「緑間ー?」
「…だったのだよ」
「は?」
「おは朝の占いで…今日名字の運勢は最悪だったのだよ」
小さな声でぽつりと言った緑間。
私はと言えば…ぽかんと口を開けたアホ面を晒してしまった。
「…何なのだよその表情は」
「いや…だって…」
何かと思えば…おは朝だったの…?
「そして、刃物は危険だから使うなとも言っていたのだよ」
「ああ、それで…」
「ラッキーアイテムで補正は出来るが、あいにく子猫は持ち合わせがなくてだな…」
「いやいや子猫とか持って来られても迷惑だし」
でも…これでようやく納得した。
おは朝が言ってたから、緑間はあんなにムキになってたのか。
そう思ったら、今度は笑いが込み上げて来た。
「笑うな」
「だって…そりゃ緑間がおは朝崇拝してるのは知ってたけどさー」
「おは朝の占いは当たるのだよ」
「でも、まさか他の人の星座までチェックしてるとはねー…」
さすが緑間と言うべきか…
緑間のこういう所は、ある意味尊敬するよ。
「じゃあ高尾くんなんて毎日緑間に運勢チェックされて大変だろうなー…
てかクラスの人もとかどんだけ広範囲なの」
「…ふん、バカめ」
「へ?」
「オレが見ているのは自分とチームメイトと好きな奴の運勢だけなのだよ」
「……え、」
「手当が終わった。後は自分で帰れ」
緑間はそう言ったかと思うと突然立ち上がって
「ちょっ、待ってよ…!」
あっという間に保健室を飛び出して行ってしまった。
……今、あいつ何て言った……?
好きな奴の運勢だけなのだよ
それって…嘘…嘘でしょ…
キーンコーンカーンコーン
その時、チャイムが辺りに鳴り響いた。
…って結局何一つ彫れなかったじゃん!
まあ、彫れなかったのは緑間も同じだけど。
…後で教室に戻ったら、アイツに問いただしてやろう。
さっきの言葉の意味を。
そしてあの言葉が本当だったら…私からも、伝えてやるよ。
すごくおかしくて、おせっかいで、うるさくて。
だけど…
―…私も好きだ、バカ。
(NEXT⇒あとがき)