03
それから時は流れ、今日の4時間目…選択美術。
他に音楽と書道があるけど、私も緑間も高尾も美術を選択してる。
そして私は今―…大変な戦いを強いられていた。
「それでは各自彫刻刀を持って行って、彫り始めて下さいね」
そう。戦いの火蓋はこの先生の言葉で切られた。
「よし、んじゃ名前、彫刻刀取りに行こ?」
「うん」
「名字ー!!!」
「ぎゃっ!」
バンッと机を叩きながらくるりと後ろを振り向く緑間。
幸い教室はがやがやしてるから周りの皆は気にしてないみたいだけど…
机の音と緑間の声に、私と隣にいる友達はかなりビビッた。
それは緑間の隣に座る高尾も例外ではないらしく。
うおおっ!と言いながら高尾がビクリと肩を揺らす。
「名字…朝のオレの話を聞いていなかったのか?」
「え…あの彫刻刀使うなってヤツ?」
「覚えてるなら問題はないが…」
「いや、彫刻の時間で彫刻刀使わないとか無理でしょ。ね?」
隣の友達に相槌を求めれば、友達も激しく首を縦に振る。
「あと30分くらいしかないし、早く彫り始めなきゃだよ」
「うん。と言う事で緑間、勘弁して」
「ダメだ!!!」
またバンッと鳴る机。
「ぎゃっ!」
もう…あんたなんかしたの?
なんて友達が横から聞いてくるけど…思い当たる節が全くない。
緑間は個性的だって前から思ってたけど…まさかそれが私に降りかかってくるなんて…
「あーもう…じゃああたしが持ってくるから。名前あたしの使えば?」
「そうだね」
「そういうこっちゃないのだよ!名字は刃物を使ってはいけないのだよ!」
「だーから真ちゃん、何でだよ?」
「そういう運命なのだよ」
「はあ?」
それからも戦いは続いた。
彫刻刀を持ってこようとすれば緑間に阻止され、使うだの使っちゃダメだの…
この席順を激しく呪った。
隣が友達なのは嬉しいけど…何で前がよりにもよって緑間なんだよちくしょー…
…よし、こうなったら。
友達に目配せした。
そしたら友達も同じ考えだったらしく…私を見て、コクンと頷く。
こうなったら、もうこれしかない。
―…強行突破!
「行くよ!」
「うん!」
バッ、
出せるだけのスピードを出して…
私は緑間のメガネを奪い取った。
「なっ…何をする!」
「名前、パス!」
「はいっ!」
伸びてくる緑間の手を避けるようにして、そのメガネを友達にパスする。
緑間の裸眼の視力が壊滅的に悪い事は既に知ってる。
そのまま私と友達は、彫刻刀に向かって走った。