02
「名字!」
パコンッ
次の瞬間、不意に頭に衝撃が来た。
「痛っ!」
突然の出来事に真っ白になった頭。
何が起こったか分からずにとりあえず目線を敦から外せば―…
丸めた教科書を持って私の席の横に立つ、数学の先生の姿。
「えっ、先生!?」
「授業に集中してないな」
心臓がどっきんと大きく鳴った。
うわあこれは…やばい。
やばいやばいやばい…どうしよう。
だけど私の心境とは裏腹に、先生はそれほど怒ってはいなくて。
はあ…と盛大につかれた先生のため息と共に周りから生まれる、クスクスという笑い声。
「…寝てる訳でもないのに何やってるんだお前は」
「えっ、いや、えーとですね…」
…言えない。
敦の寝顔見てて授業聞いてませんでしたなんて言えない…
「まったく…ん?」
先生の視線が、今度は私の前―…敦に向いた。
「…ったく紫原はいつもいつも…こら、起きろ!」
バコンッ
私より大きめの音と共に、丸めた教科書が敦の後頭部にヒットした。
「んー…何ー?」
のそりと首を持ち上げる敦に、更に教室の笑い声が大きくなる。
どうやら皆の笑いの原因は、もう私から敦に変更されてるみたい。
ああ、良かった…
「まったく2人して何なんだお前らは…」
「ふたりー?」
敦は数秒先生の顔を見つめてから―…くるり。
今度は私の方を向いた。
「●●ちんも寝てたのー?」
眠そうな目。
だけど紫色の綺麗な目に見られて、再び心臓がどっきんと踊る。
「えーと私は寝てたというか…」
「さては名字、紫原の寝顔に見とれてたか?」
「へ?」
不意に横から降って来た先生の声。
はやし立てるような笑い声が、また私に向けられる。
せっかく注目から逃れられたと思ったのに…
「いやいやいやいや違いますから!」
「全否定するとこが怪しいなあ」
「へー、●●ちんそうだったんだー」
「違います!考え事してただけです!」
…って敦まで…
「怪しいな…まあいい。名字、問13を前に出て解けとさっきは言ったんだ」
「あ、はい!解きます!今すぐ解きます!」
ガタンと即行で席を立ち、小走りで黒板に向かう。
た、助かったー…