ふわふわ
「―…続いてこのYの値をXに代入して―……」
数学の先生の声が静かな教室に響く、午後。
昼休みが終わってすぐの5時間目。
窓際の私の席には暖かい日の光が差し込んできて、瞼がとろんとしてくる。
そして私の前の席で既に睡魔に負けている彼―…敦。
敦は大きな身体を器用に丸めて机に突っ伏している。
顔を机の上で組んだ自分の腕の中に入れてるから表情は見えないけど…
太陽を浴びて輝く紫色の髪が規則正しく上下していて、何か気持ち良さそう。
その間にも授業は進んでいて、他のクラスメイトは板書を写すのに必死。
私もその一人なんだけど…敦、大丈夫なのかな。
赤点なんて取ったら、部活行けなくなっちゃうのに。
…まあ起きてられたらそれはそれで黒板見えなくなっちゃうんだけどね。
起こそっ、かなー…
そう思って左手を敦の背中に伸ばした瞬間
「んー…」
近くの人にしか聞こえないくらい小さく敦は唸って…こてん、と首が傾いた。
おかげでさっきまでは見えなかった敦の左頬が見えるようになる。
女子顔負けの真っ白な肌に、長いまつ毛。
立ち上がれば身長は2m以上もあるのに…
すやすやと気持ち良さそうに眠る寝顔は、年よりも随分幼い感じがした。
(うー…)
これじゃ何か起こせないよー…
さっき寝返りをうったきり、敦は微動だにしない。
何か…大人しいなあ…
普段の言動とか、仕草とかからも勿論感じるけど…
こうやって寝顔見てると、余計思う。
―…小さな子供みたい。
あー…ただでさえ眠いのに、敦の顔見てると更に眠くなる…