ミーンミーンという耳障りな音がいつしか聞こえなくなった。それとともに姿を現すのは鳴き声の亡骸。道を歩けばほらもう彼方此方に散らばるそれに形容し難い寂寞感が胸に沈んだ。

「おい、マツバ」
「なんだ」

 声の主は案の定ミナキくんで、振り返るとやっぱりいつもの彼がいた。それは当たり前の事実のはずなのに何故か違和感だらけの奇跡のように思えた。
 何ぼやっとしてんだというミナキくんの声に、足許に転がるその亡骸から視線を彼に戻す。足許のそれは生温い南風に浚われて、からからと空虚な音を立てながら遠ざかっていった。

「別に、夏も終わりだなと思っただけさ」
「……ああ、今年はもう蝉も見納めだな」
「そうだな」

 不意にミナキくんの視線を追うと、彼もまた何処かへ流れていく亡骸を追いかけていた。それがやけに僕を寂寞という感情に駆り立てる。

「なあ、ミナキくん」
「なんだ」
「もう夏が終わるな」
「そうだな」
「……なあ、」
「なんだ」

 またスイクンを探しに行くのか? ここから居なくなるのか? なあ、行かないでくれよ。そんな言の葉は終ぞ口から吐かれることはなくて、行く宛もない言葉も残暑の生温い南風にからからと寂しい音を立てて何処かへ行ってしまった。





夏のわり
生温い風と空っぽの音だけを残して生命の謳歌は終焉を告げた。





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10.09.05
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